第63話 通商破壊(つうしょうはかい)

「てめぇ、よくもやりやがったな!」

「ただじゃおかねえ!」

「小僧は殺せ!女は……グヘヘヘへ」

「おい、まだガキじゃねえか」

「それがいいんだろうがよ」


 領都フレイムを出発して早五日。

 冒険者の街アグニスまでもう少しというところで、僕とブランは汚らしい男たちに取り囲まれていた。


 疾駆する【麒麟】くがねの背に乗ってアグニスまで向かっていたところ、途中の道を封鎖していた男たちを跳ね飛ばしてしまった。


 うわっ、人身事故だと思い、慌てて戻ると前述の状況に陥ったわけだ。


 何だ盗賊か。

 心配して損した。


 跳ね飛ばされた数人の盗賊がピクピクしているけど、気にしなくてもいいね。


「ブラン。気づいてたの?」

「ん。悪意満々だった」


 そう言えば、くがねも悪意を事前に感じ取れるんだったな。

 盗賊が立ちはだかっていたのが分かったから、跳ね飛ばしたんだね。


 相方と聖獣の連携プレーに思わず舌を巻く。


「おい、ガキ!この状況が分かってるのか?」

「もう逃げられねえぞ!」


 あまりにも怯える様子を見せない僕らの姿に、盗賊たちが苛立つ。

 別に侮るつもりはないけど、こんな奴らに負ける気もしないので、恐れるつもりはない。


 それにしてもおかしいな、シュレーダー辺境伯家うちは盗賊の類を徹底的に殲滅するから、あまり盗賊たちの居心地は良くないはずなんだが……。


「剣に刻印を削った跡がある。立ち位置からも訓練を受けた者たち」

「マジで?」

「ん。多分、隣国の兵士」

「ああ、通商破壊か……」


 目のいいブランが、盗賊の装備や身のこなしを見て隣国の兵士だと当たりをつける。

 その結果、僕は男たちの目的が通商破壊――いわゆる流通を滞らせて経済や軍事行為にダメージを与える戦略だと理解する。


 この国は大国とは言えども、国外には様々な敵を抱えている。

 その敵のひとつが、シュレーダー辺境伯領と国境を接している【オフィオファグス・ハンナ連合国】である。


 近年でも、辺境伯領に大規模な侵攻を行って父さんに殲滅されていたはず。

 確か連合国の総指揮官を捕らえて、莫大な身代金も得ていたはず。


 大規模に侵攻するのは無理だと判断して、こうして地味に経済から崩しにかかってきたわけか。


 連合国の兵士なら、出没するのも理解できる。

 ひと仕事したら自国に逃げ帰れば良いのだから、領軍にも見つからない訳だ。


 僕らを取り囲んでいるのは百名前後か。


「やっちゃう?」

「もちろん」

「「ガウッ!」」


 冒険者としての仕事ではないが、立場的に見逃すつもりはない。

 ブランも聖獣たちもやる気満々だし、哀れな兵士たちに世の中の厳しさを教えてやることにしますか。


 こうして僕らは、盗賊と対峙するのであった。


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