第64話 鼠窃狗盗(そせつくとう)
「おい、小僧は殺せ!小娘は生け捕りだ!」
「「「ういッス!」」」
頬に傷のある比較的身なりの整った男が、手下たちにそう命令すると、盗賊たちは僕らに殺到する。
これまでに【
「お〜お〜、戦い方は偽装するつもりは無いと見える」
「どうする?」
「もちろん殲滅。ただ、何人かは生け捕りにしようか?」
「ん」
やることが決まった僕たちは、盗賊たちへと歩を進める。
あっという間に、盗賊たちに取り囲まれてしまうが、そこに危機感は一切ない。
さあ、行こうか。
僕はくがねから降りると早速、無詠唱で魔術を展開する。
―――【八寒地獄】の第二獄【尼剌部陀(にらぶだ)】
見上げるばかりの氷の大剣が、僕の右手に顕現した。
剣のグリップまでが全て透明な氷で作られた西洋剣は、見る者を圧倒する存在感と、まるでオーラのように立ち上る真っ白な煙を纏っている。
「なっ、何だありゃあ……」
「突然現れたぞ……」
「魔術なのか?」
「いや、詠唱はしていなかったはず……」
それを見た盗賊たちは、理解できないものを見たとばかりに動揺している。
だが、さすがは訓練を受けていると思しき者たち。
「ええい、うろたえるな!そんな大剣振り回せるはずがない!かかれ!」
すぐにそう判断して指示を出す指揮官の男。
その判断は正しい―――それが物理的な大剣であったなら。
僕は軽々とその大剣を振り回し、襲いかかって来た盗賊たちを両断する。
「なっ!?」
「何だとおっ!!」
「ありえねぇ……」
魔術で作った大剣だ。
そこに、重さや抵抗があるはずもない。
まるで、自分の手の延長のように容易く大剣を振る子どもの姿は、盗賊たちには悪夢のように見えたであろう。
「早く、治癒をしろ!」
「バッ、バカな!治癒魔術が効かない……」
「何だとおっ!?」
しかも、盗賊たちが驚いているように、斬ったそばから傷口を凍らせ、細胞を壊死させているために、治癒魔術もポーションも効果がない。
僕が氷の大剣をひと薙ぎするたび、そこには死屍累々の盗賊たちが転がる。
そして、くがねとしろがねの二頭も、聖獣の名に恥じぬ働きを見せる。
雷撃を放つ麒麟と、疾風を巻き起こす騶虞。
「何だコイツら」
「馬じゃねぇのか!?」
「ただの虎じゃねえぞ!」
「魔物か?」
聖獣です。
くがねたちと対峙して焦る盗賊たちを横目に、僕は剣を振るう。
―――と。
「くそおっ!これでも喰らえ!」
ひとりの盗賊が、小さな瓶を投げつける。
それは、火炎瓶と呼ばれる投擲武器のひとつ。
地面や相手に当たった衝撃で瓶が割れ、中に入っていた特殊な液体が発火する代物だ。
目の前で炎が広がれば、僕は冷静ではいられないだろう。
相変わらず炎への
だが、それをみすみす許すウチの相棒ではない。
瓶が地面に落ちる前に、それを右手でキャッチするブラン。
まるで瞬間移動をしたかのようにも見える、超高速移動で回り込んだのだった。
「…………死ね」
次の瞬間、瓶を投げた男はブランの渾身の力で頬を殴りつけられ、その衝撃で首が一回転して事切れる。
「ひいっ」
その無惨な死に方に、近くにいた盗賊は情けない声を上げる。
そしてその悲鳴が、ブランの気を引く。
その手には死んだ男同様に火炎瓶を握りしめていた。
「【
詠唱を破棄したブランの魔術で、火炎瓶を握りしめた腕を残して細切れになる盗賊。
「うわぁぁぁぁぁぁぉぁ!!!」
「逃げろ、逃げろ!」
「殺されるううううう!!」
こうして生き残った盗賊たちは恐慌状態に陥るのであった。
おそらく正規の訓練を受けていたであろう者たちすら、平常心を保てないほどの力の差。
一部の者たちは踵を返して逃走を図る。
だが、それをみすみす逃す僕たちではない。
氷の大剣が、様々な魔術が、聖獣たちの爪牙が盗賊たちを次々と屠っていく。
盗賊たちは、死神が手招きしている姿を幻視していたことだろう。
「なんで……なんで、こんなことに……」
盗賊たちの指揮官が、かっくりと膝を落としてそうつぶやく。
こうして行きがけの駄賃とも言える、盗賊たちとの戦いは終わりを迎えたのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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