第166話 催涙瓦斯(さいるいがす)

 火の竜ファイアードレイクは魔術耐性があり、魔力による攻撃は全く効果がないという。

 それ故に、ブランも目の前のデカブツを直接殴りつけていた訳だが、どうしても効率が悪過ぎる。


「だからって、いつまでも自分が無敵だとは思うなよ、トカゲ野郎。まずはブランの仇討ちからだ」


 火の竜ファイアードレイクの眼前まで飛び上がると、次元収納から取り出した樽をその凶悪な顔に叩きつける。


 その瞬間、炎を吐き出そうとしていた竜はその四肢を派手に投げ出して大地を転げ回る。


「グギャァァァァァァァァァァァ!!!」


 その悲鳴は苦痛に満ちたもので、悶えた拍子に付近の家々が巻き込まれて破壊される。


 もしも……、いや、俺は確実に生き延びるから、後で【再生(レノヴァーチ)】をかけるから許してね、と内心で謝罪する。

 まさか、ここまで効果があるとは思っていなかったんで、あまりのことに俺自身も驚いているところだったから。


 もっとも、俺が火の竜ファイアードレイクに叩きつけたのは、教会カレーで使うために保存していた唐辛子パウダーを詰めた樽だ。

 しかも、前世における激辛ランクトップの唐辛子『キャロライナ・リーパー』にも匹敵するほどに激辛な、この世界で最辛の『インフェルヌス地獄門』と呼ばれる品種。

 激辛好きの相棒ブランのために仕入れていたが、あまりにも強烈過ぎてまだ手を出さずに保存していた代物。


 それを樽ごと顔面に叩きつけられたのだ。


 火の竜ファイアードレイクは、瞳や鼻、口の粘膜を激しく刺激され、想像を超える痛みを感じているのだろう。


 前世で防犯に使われていた『催涙スプレー』に使われているガスは主に二種類あり、そのうちのひとつが「オレオレジン・カプシカムガス」いわゆる唐辛子スプレーと呼ばれるものであった。


 うん、そりゃあ痛えわ。


「アル!」


 俺がそんな事を考えながら、転げ回る竜の姿を見下ろしていると、そこに転移門が現れてブランがドアをくぐってやって来る。


「そっちは?」

「問題ない。ヒゲ爺に預けてきた」

「…………パウロ大司教ね。疲弊してるようだけど、をやりたい。大丈夫か?」


 俺は、黒焦げの軽鎧を身に纏ったブランにそう尋ねると、白狼の少女は問題ないと力強く頷く。


「じゃあ、見通せる位置に移動してくれ」

「ん」

「頼む」


 俺とブランはそれで事足りた。

 ブランは俺の意を汲んで、すぐに然るべき場所に向かう。


「今は心強いけど、前の方が良かった」


 そんなセリフを残して。



 この世界のアルフレッドという個人も、前世の記憶であるも同じ人物なんだがなぁ、と少々フラレた気分でその背中を見送る。


 苦笑いを浮かべつつ、俺はゆっくりと詠唱を始める。

 それはとあるイメージを固めるために必要な儀式。


 俺がこれから展開する魔術は【八寒地獄】の第六獄【嗢鉢羅(うばら)】。

 氷であらゆる物を作る魔術だ。

 唐辛子のおかげで時間はたっぷりある。

 キッチリと仕上げて見せようか。


 イメージはとある巨大変身ヒーロー。



 火の竜ファイアードレイク催涙爆弾唐辛子の樽の痛みが和らぎ、涙を浮かべつつも憎悪に満ちた竜瞳が開いたとき、その眼前には同じくらいの体躯を持った氷の巨人の姿があった。



 さあ、怪獣退治といこうか。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


巨大な怪獣を倒すとなればの出番でしょう。

М78の星からやってきた労働時間3分の男。


ブランとどう繋がりがあるのか、ご期待下さい。


短編新作を投稿しています。


『転生したらトイレの神様だった件』


異世界転生したトイレの神様がウォシュレットトイレの設置を目指す物語です(汗)


トイレ縛り、人の目に触れない縛りでどこまで話を膨らませられるかの実験作です。

そろそろ佳境に入ります。


是非、ご一読下さいませ。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。



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