第165話 一意専心(いちいせんしん)

 自分で殴りつけた頬が痛いが、おかげで気持ちはクリアになった。


 ふと。鼻の下に違和感を感じて拳で拭うと鮮血が手に付着する。

 どうやらは、気合を入れるために強く殴り過ぎたようだ。


 ダラダラと鼻血が流れている。


「ハハハッ、どうしてそう極端かなぁ……」


 俺は思わず自分自身の大雑把さに笑みをこぼす。

 だが、今の俺はそれでいいと納得する。



 目の前には見上げるばかりの炎の壁。

 不思議と炎を前にしても恐怖を感じない。


 おそらくどこかのネジが飛んでしまったのだろう。


「上等だぁ!やってやらぁ!」





 今ならイケると確信した俺は、魔力を練り上げて無詠唱で【八寒地獄】の第七獄に列する【鉢特摩(はどま)】を展開する。


「凍てつく世界だ。どうだトカゲ野郎!」


 すると見渡す限りの世界が氷の世界に覆われる。

 それは、今まで暴威を奮っていた竜もまた同様に凍りつく。

 空気までが凍てついたような世界では、燃え盛る炎すらその勢いを失う。


 さすがにブランや近くの領兵たちを凍らせる訳にはいかないのでかなりの手加減をしたが、燃えあがる町並みを鎮火するには十分な効果を得た。


 俺は凍りついた大地を踏みしめ、ゆっくりとブランに近づくと、そっと彼女を抱えあげ、同時に【完全治癒(ペルフェクティオ・サナーレ)】でその傷を癒やす。


「アル……………」

「待たせたな……。助けに来た」


 見れば、彼女が倒れていた下には年端の行かない少女の姿があった。


「無茶するなよ。お前が怪我をしたらアルフレッドコイツが心配するだろうが」

「貴方は……誰?」

「俺か?俺は俺だ。ちょっと前世の性格が混じってるけどな」

「アル……なの?」

「ああ、それは間違いない。だから、安心しろ」

「ん、分かった」

「それでいい」


 そう言って俺は、ブランがその身を呈して生命を守った少女の怪我も癒す。

 ブランが咄嗟に障壁を展開したからか、少女の命に別条はない。


「さてと、このまま凍りついててくれれば良かったんだがな…………」


 俺がそうつぶやくと同時に、頭の上で氷が砕ける音が響く。

 チラリと見上げれば、身体の表面を覆っていた氷を破壊して火の竜ファイアードレイクがその真紅の姿を現す。


「アル……、アイツは魔術が通じない」

「分かった。ブラン、身体の方は大丈夫か?」

「問題ない」

「良かった。とりあえず、アイツの動きを止めるからこの子を………」

「ん」


 あとは俺たちふたりに言葉はいらない。


 僕とブランは今すべきことを成すために、それぞれ動き出す。 


 ブランは怪我が治った少女を抱えると、転移門を呼び出してドアをくぐっていく。

 まずは、安全な場所に少女を預けることを優先したのだ。


 そして俺は、炎を吐き出そうと大きく息を吸い込んだ火の竜ファイアードレイクの眼前まで飛び上がると、次元収納から取り出した樽を竜の顔面目がけて叩きつける。


「グギャァァァァァァァァァァァ!!!」


 すると、火の竜ファイアードレイクは悲鳴を上げて大地を転げ回る。


 効果は抜群だ。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


いよいよ、反撃開始。

性格が変わった理由については後述します。


筆も滑らかになりました。



短編新作を投稿しています。


『転生したらトイレの神様だった件』


異世界転生したトイレの神様がウォシュレットトイレの設置を目指す物語です(汗)


トイレ縛り、人の目に触れない縛りでどこまで話を膨らませられるかの実験作です。

そろそろ佳境に入ります。


是非、ご一読下さいませ。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。


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