第33話 試行錯誤(しこうさくご)

 【魔法】とは、この世界に存在する魔力によって引き起こされる現象や事象のことをいう。

 分かりやすく言えば、魔力によって引き起こされるあらゆる現象のことだ。


 【魔術】とは、魔力に方向性を持たせ、人の望む結果を生み出す術をいう。

 分かりやすく言えば、魔力を炎にしたり、氷にしたりする方法のことだ。


 大雑把だが、そんな感じらしい。


 だから、この世界には【魔術師】はいても【魔法使い】はいないらしい。

 魔法は自然現象を指すわけだからね。


 基本的にこの世界は魔力が満ちているため、あらゆる自然現象が魔法で説明がついてしまう。


 このため科学というものが存在せず、近い存在として【錬金術】があるものの、一般的にはまだ浸透していないのが現実だ。


 僕が見る限り、たいていの物理法則や自然現象は前世と変わらないように見える。


 もっとも、何もない場所から炎や氷を生み出せる魔力の万能さには驚きしかないが。


 そして先日、呪文すら知らない八熱地獄を発動出来たことで、ひとつの思いが強くなった。


 …………あれ、これって呪文要らなくね?


 そもそも、エドガーとの戦いで使った会話に呪文を織り交ぜる方法が成功した時から、薄々と考えていたことだった。


 プレセア先生によれば、多少呪文を間違っても魔術は発動するらしい。


 そこで僕は、呪文の語尾に「~ワン」って付けてみた。


 別に視界にブランがいたからとかじゃないよ。


 だいたい、ブランの仕草が「犬みたいで可愛いね」って褒めるとすぐに「狼だ」って怒られるし。


 あっ、ブランがこっちを睨んでる。


 話を戻そう。

 ちゃんと氷の魔術は発動した。


 これから僕は、犬呪文派だ~!

 いや、騒いでいる場合じゃないぞ。


 散々、呪文を覚えさせられたが、それが無駄になるかも知れない。


 そもそも、呪文って何だろう。


 こんなことを考えるのは、僕が転生者だからなのだろう。


 前世には魔力が無かった代わりに、誰もが科学の恩恵を受けていた。

 だが、そこには厳格なルールがあり、それに従わなければ恩恵は得られなかった。

 身近なところで言うなら、電源をオンにしなければテレビを見られなかった、エンジンキーを回さなければバイクは走らなかったなど、きちんと決められた手順があったのだ。


 それに比べて、この世界の呪文って何なんだ?

 犬呪文でも発動するなんて何でもありすぎだろ?



 ひとつ仮定を立ててみる。

 本来、呪文とは後付けのものだったのではないか。

 たまたま、ある魔術を成功させた者が、魔術の発動前にこう言ったから成功した。

 だから、みんなでそれを真似したら上手く言ったので、それが呪文として定着した……とか?


 そうすると、そこから導かれるのは成功体験による結果のイメージだ。



 イメージ?


 そうだよ、イメージだよ。


 テレビも写真もないこの世界で、ある現象をイメージさせるきっかけとして呪文があるんだ。


 つまり、この結果を出すにはこう呪文を唱える

といいと思い込むことで、イメージを固定させていたと考えれはどうか。


 僕は前世で見た製氷機の氷をイメージする。


「出ろ!」



 コロンと音がして机の上に氷が転がる。


 それは前世では何度も見たことのある立方体の氷だった。



 


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