第78話 焦眉之急(しょうびのきゅう)
その店は『
僕たちは今、店の少女『アリシア』が作ってくれた食事を取りつつ、店の置かれている現状を聞いていた。
「それが突然に、付き合いのある問屋が食材を卸してくれなくなったんだ」
「どうして?」
「分からない。とにかくウチの看板メニューの【ブラッディボア】の肉だけ卸してもらえなくなったんだ」
「ブラッディボアって大森林にもいるよね」
「ああ、だから父ちゃんと母ちゃんは冒険者に復帰して大森林に行ったんだけど……」
「まだ帰ってこない……と」
「うん」
「ブランはどう思う?」
「餌を探す子猫は背後の狼に気付かない」
「そうだよな。アリシア、両親はいつごろ大森林に入ったんだい?」
「昨日の朝。大森林って言っても浅いところだから日帰りで大丈夫って言ったのに……」
「アリシア、これから言う物を準備してほしい」
もしも、この店に起きている一連の行為が、僕の思ったとおりなら時間がない。
「ブラン、悪いけど午後の依頼はキャンセルだ」
「そう言うと思った」
「ランクを上げるのが遅れるけど、仕方ないよね」
「別に…………初日でランクを上げようとしてたのが間違ってただけ」
「ハハッ、最短昇任を狙ってたんだけどな」
「それは焦らなくていい」
「そうだね、でもこっちは焦らないと」
僕が振り返るとちょうどアリシアが両親の私物を持ってきたところだった。
「こっ、これでいいの?」
「ああ十分だ。じゃあ、僕はアリシアの両親を探しに行くから」
「ん」
「ブランはアリシアと卸業者を当たってくれ」
「分かった。どこまで?」
「死なない程度なら何とかする」
「ん」
「ねぇ、アンタたち何を言ってるの?」
「安心して、きっと両親を助けてみせるから」
僕がそう笑いかけると、アリシアは顔を赤くしてそっぽを向く。
「アタシがわざわざ食事を作ったんだから、当然なんだからね」
「あの程度なら、アルが作った方が美味しい」
「アンタはなに言ってんの?散々ガツガツ食べてたくせに」
「出されたら完食するのが礼儀」
「あ~っもう」
どうやらふたりとも仲良くやっていけそうだ
と確信し、僕は笑いを堪える。
「アリシア、両親の名前は?」
「【ランド】と【リサ】」
「了解」
すると僕は、アリシアが持ってきた色違いのタオルに向き合うと、無詠唱で魔術を展開する。
【反射(レフレクス)】と名付けた魔術だ。
僕の目の前に氷の鏡が現れると、その鏡面に写った二本のタオルが宙に浮いて飛んで行く。
「なっ……」
目をむいて驚いているアリシアに片手を上げると、僕は宙に舞い上がったタオルを追いかける。
「じゃあ」
そう言って僕は、フレイムの街の外壁を駆け上がると、大森林に向けて宙を駆けるのであった。
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