第77話 合縁奇縁(あいえんきえん)
僕とブランは、お昼をとってから午後の依頼に望むべく、顔役のグスタフさんから聞いた店に向かう。
元冒険者の夫婦が開いたというその店は、街外れの一角にあった。
味も量も申し分なく、冒険者たちからは大好評で、冒険者ギルド御用達の店だとは聞いていたのだが……。
かつては、行列ができるほどの繁盛店だったのかと知れないが、現在は閑古鳥が鳴いていた。
「…………何でこんな店を紹介されたんだよ」
「ボロボロ」
「だね。それに、客もいないし」
「ホントに美味しい?」
「期待できないよね。僕、街の人たちと仲良くなったと思ってたんだけどなぁ」
「それで紹介されたのがココ……」
「やっぱ、ウザいガキだと思われてたのかなぁ」
仲良くなったと思っていた街の人から、オススメの店だと聞いて楽しみにしていたのに、この店の様子じゃダメだろう。
得意気にこの店をオススメしていたグスタフさんの笑顔が浮かんでくる。
狸だけにバカされたのかな?
あのオヤジ絶対に許さん。
僕が空想の世界で、ニヤケたオヤジの顔をシュシュッと殴っていると、背後から甲高い怒鳴り声が聞こえてきた。
「何、店の前で騒いでんだよ!客じゃないならさっさと帰れ!」
振り向くと、僕らと同年代くらいの少女が腰に手を当てて、僕らを睨んでいた。
「え?」
「さっきから聞いてれば、人の店の前で『期待できない』だの『ボロボロ』だのと、店の邪魔をしに来たのかよ!」
栗毛でソバカスが特徴的なその少女は、僕たちの先程の会話に腹を立てたようだ。
だんだんと、少女のそのつぶらな瞳に涙が溢れてくる。
「とっ……お父さんとお母さんが一所懸命働いて出した店だ。お前らがバカするな……っう、ううえぐっ」
泣かせてしまった。
ブランが冷たい眼差しで僕を見る。
いや、あなたもボロボロとか言ってましたからね。
僕が視線で無言の抗議をするが、ブランにはアッサリと無視される。
それどころか、泣いている少女をあごで指す始末。
早くやれってことですか、分かりました。
こんなとこばっかり、母親のディアナに似てるんだもんなぁ~。
ブランにせっつかれた僕は、少女を宥めることにする。
だが、少女の様子を見ると、店をバカにされたことが悔しくて泣いているのとは違うようだ。
どちらかと言えば、何か思いつめていてそれがふとした瞬間に溢れ出してしまったようなそんな感じがする。
そこで僕は、まずは泣き止んでもらってから、詳しく話を聞こうと考えた。
「申し訳ございませんでした。こんな公衆の場で配慮が足りませんでした」
僕は素直に謝罪するとともに、この無駄に整っている顔で笑いかける。
前世の自分と比べることさえおこがましい、この貴公子フェイスと腹黒笑いとブランに評される笑顔があればたいていのことは何とかなると思っている。
素直に現世の両親が美男美女で良かった。
すると、少女は顔を真っ赤にして挙動不審になる。
どうやら泣き止んでくれたようだ。
「ごめんなさい」
そこへブランも謝罪する。
「……おっ、おう」
僕らが素直に謝罪したために、少女は面食らっているようだ。
「僕の名前はアルフレッド、こっちがブランです」
「……ん」
「どうも」
ブランがちょこんとアタマを下げると、少女もつられて頭を下げる。
この子、いい子だわ。
「僕たちはなりたての冒険者なんです。どうやら何か心配ごとかある様子。ここで会ったのもなにかの縁です」
「理由があれば聞く」
街の人に騙された僕が言えることではないが、
素直に謝ったことが幸いして、少女は僕たちに悪感情は持っていないと思われた。
だから、この提案も聞き届けてもらえるのではないかと期待する。
すると少女は、わずかに躊躇するも、すぐに気まずそうな顔をして僕たちに告げる。
「アタシもいきなり怒鳴って悪かった。とりあえず。店に入ってくれ」
こうして僕たちは、街外れの食堂の娘【アリシア】と出逢ったのだった。
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