第34話 魔術実験(まじゅつじっけん)
無詠唱で立方体の氷が出来た。
その結果に、思わず身体が震える。
つまり、結果をイメージして魔力を練り上げることさえできれば、魔術を発動させられるという証左がここにあるわけだから。
僕は次々とイメージして、魔術を発動させてみる……もちろん無詠唱で。
板氷を作ったら、ブランに驚かれた。
雷を落としたら、ブランに怯えられた。
灯りを灯したら、ブランに喜ばれた。
竜巻を発生させたら、ブランに仕事を増やすなと殴られた。
ともかく、イメージさえ出来ればあらゆることが出来ると分かってしまった。
数時間ほど練習していると、突然倦怠感が襲ってくる。
これが魔力切れってヤツかな?
そこで、今日の練習を切り上げる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ブランがタオルを手渡してくるので、汗をふきつつ、これまでの成果について考える。
実際、これはこの世界の魔術の常識を覆す発見だ。
どうしよう、ヤバイことになるかも。
最悪、既得権益を守ろうとする者から命を狙われる可能性も出てきた。
まずはプレセア先生に報告して、何ができるかを明らかにする必要がある。
その後は、父さんにも話す必要が……いや、これは父さんを越えるための切り札になり得る。
申し訳ないが、勝つまでは秘密にさせてもらおう。
あとは、誰か味方がいないかなと考えていると、ブランと目が合う。
じっと見つめる僕に、どうしたのかと小首をかしげるブランが実に可愛らしい。
獣人は魔力を持っているものの魔術は使えないことが、この世界では定説である。
でも、見た感じでは無意識に身体を強化する魔術を使ってるようにも見えるんだよな。
じゃないと、あの細腕で僕が投げ飛ばされるのは理由がつかないし。
ディアナなんて、空を駆けるんだよ。
明らかに魔術を使ってるじゃないか。
そこで僕はブランに尋ねる。
「ねえ、ブラン。僕と一緒に魔術を練習してみない?」
「獣人は魔術が使えない」
「僕の方法ならできるかもよ」
「アルの?」
「そう、さっき見たでしょ。無詠唱で魔術を発動させたの」
「うん、すごかった」
「結果をイメージさえ出来れば、魔術っては発動できるみたいなんだよ」
「そんなこと……」
「信じられない?」
「アルは、私には嘘をつかない」
「じゃあ、やってみない?」
「……うん」
こうして、僕とブランの秘密特訓が始まる。
結果としてブランは、見事に魔術を発動できたのだった。
ブランが、最初に小さな竜巻を出せたとき、ブランは泣き出し、プレセア先生は絶句したものだ。
「嘘……」
そう言って泣き出してしまったブランは、昔から魔術に憧れていたそうで、その喜びはひとしおだったらしい。
ただ、やっぱりイメージを固定するのに無詠唱は難しいようで、ごく短い詠唱を必要としていた。
プレセア先生も【詠唱破棄】までは出来たが、完全な無詠唱にまでは至っていない。
そこはこの世界の人と、転生者の僕との違いなのかなと思う。
こうして密かな特訓を続けて早3年。
ついに、この日がやってきた。
父さんとの再戦だ。
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