第169話 削足適履(さくそくてきり)
前世と比較すれば、科学的にも文化的にも遅れているこの世界ではあるが、魔力が存在して魔術があるというその一点だけで多くの可能性が秘められていると思う。
僕の仮説のとおり、魔術はイメージに基づいて世界に影響を及ぼすことは間違いない。
となれば、それを突き詰めさえすれば、前世並み……否、前世以上のことを出来るはずだ。
「【
俺が無詠唱で周囲を調べるための魔術を展開する。
そこに逃げ遅れた者はいないか。
この魔術はあらゆる物体の干渉を受けることなく、そこに人がいれば反応をする。
この魔術があれば、ファイバースコープや音響探知機は必要ない。
「…………!!」
すると、俺たちがいるこの戦場からわずかに離れた瓦礫の下に人の反応があった。
「マズい!」
やはり、逃げ遅れた人がいたか。
瓦礫の下という一刻の猶予もない状況に、俺は【
途中、空に蹴り上げられた
(あっぶねぇ……)
少々冷や汗をかいたが、とりあえずは無事に目的地に着いたことで良しとしよう。
「【
俺が魔術で瓦礫の山の中を透視する。
この魔術で
どうやら、まだ息はあるが予断を許さない状況なのは間違いない。
ここには、エアジャッキや削岩機、エンジンカッターといった災害救助の資機材は無い。
だが、魔術がある。
俺は山のような瓦礫を全て次元収納に回収すると、残された地面の上に全身から血を流して虫の息の老婆の姿があった。
「しっかりして下さい。大丈夫ですか?」
俺は老婆に声をかけつつ、【
たぶん、これで間に合ったはずだ。
俺は祈る気持ちで、老婆の様子を見守るのだった。
老婆が目を覚ますまでは下手に動くことも出来ない。
万が一、容態が急変した場合にもう一度
幸いなことに、俺の【
あとは、ブランと竜の戦いに巻き込まれないようにすればいい。
そんなことを考えていると、老婆の双眸がゆっくりと開いていく。
「おや……、ここは天国かね?」
「いえ、まだまだ生きててもらわないと困りますよ」
俺が笑顔を見せてそう返すと、老婆は驚いた様子で目を見開く。
「えっ?生きて……る?」
「はい。生きてます。どうですか?どこか、具合の悪いところはありませんか?」
俺が尋ねると、老婆はムクリと起き上がり歓声を上げる。
「あらあら。もう動けないほど身体のあちこちが痛かったのに、どこも痛くないよ。やっぱりアンタは神様なのかい?」
そんな言葉に、俺は安堵する。
どうやら、無事に助け出すことが出来ていたようだ。
「ちょっとアンタ!何で泣いてるのさ!ねえ!」
すると、老婆は驚いた表情で俺にそう呼びかける。
………………涙?
俺が首をひねりながら、目元にそっと手を置くと指先が濡れる。
どうやら、知らず知らずのうちに泣いていたようだ。
ああ、そうか…………。
俺はこのとき、ようやく自分の心残りが何だったのかを理解する。
俺は助けたかったのだ。
あのとき死んでしまった
自分自身を救えなかったという事実が、これまで己を苛んでいたのだ。
これは代替行為なのは間違いない。
老婆を救ったからと言って、炎に包まれた自分が生き返る訳でもない。
だが、それでもいい。
俺はすべきことが出来たのだ。
もちろん、今でも炎は怖い。
視界の隅に炎が見えるだけでも身体は強張ってしまう。
それでも、自分自身の手で人を救えたことで心の重しがひとつ取れたことは間違いない。
こうして
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
パワーアップとまではいきませんが、これでアルフレッドもひとつ前に進むことが出来るようになりました。
次回、スッキリとしたアルフレッドが怪獣退治に参戦します。
短編新作を投稿しています。
『転生したらトイレの神様だった件』
異世界転生したトイレの神様がウォシュレットトイレの設置を目指す物語です(汗)
トイレ縛り、人の目に触れない縛りでどこまで話を膨らませられるかの実験作です。
そろそろ佳境に入ります。
是非、ご一読下さいませ。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
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