第89話 一件落着(いっけんらくちゃく)
僕がブランたちのいる場所に『どこ◯もドア』を展開すると、そこは件の卸問屋の応接室のようだ。
転移魔術はどこに出口をもうけるかのイメージが大切なため、一度行った場所にしか転移出来ない弱点があったが、それをそのまま放置するような僕ではない。
イメージ出来ないなら、できる場所を造ればいいじゃないということで、以前にブランに贈ったリングにちょっとした細工をしていたのだった。
それが、ブランの位置がすぐに分かる機能だ。
いわゆるGPS機能のようなものだ。
GPS衛星が飛んでいるわけではないので、正確ではないが、要するに魔力でブランが今いる場所を分かるようにしたのだ。
あとはその目の前に転移すればいいというワケ。
だが、これには問題があって、ブランが常に僕と一緒なのでなかなか使う機会に恵まれなかったのだ。
なので、実際に使ってみて、無事に成功してひと安心。
余談だが、僕がブランに送ったリングは、ミスリル製のもので、『位置把握』の他に『毒無効』『麻痺無効』『幻覚無効』等、思い付く限りありとあらゆる耐性を付与している。
魔術の付与もイメージ次第なので、土台さえあればいくらでも出来る。
さすがにブランのリングほど付与するとなると、苦労するのでもうやりたくはないが……。
で、リングを贈ったらブランが涙を流すほど喜んで、左手の薬指に着けているのだが、こっちの世界じゃ、エンゲージリングの習慣は無かったよな?
あれ?
前世について、そんなことまで話したっけか……?
まあ、難しいことは今考えても仕方ない。
話を戻そう。
今、僕の目の前では親子が感動の再会をしている。
「ブラン、お疲れ様」
「ん。メダリオンを使った」
「おおっ、やっぱり決定的瞬間を見たんでしょ?いや~、やっぱり家政婦は見るものなんだよ」
「だから家政婦って何?」
「ん~、メイドみたいなもの?」
「やっぱり良く分からない」
そんな他愛もない会話をしていると、落ち着きを取り戻したランドさんたちが僕らのもとにやってくる。
「アルフレッド君、それとブランさん。本当にありがとう。君たちがいなければ、僕らの生命は無かったと思う。生命の恩人だ」
「娘から聞きました。ハンザ商会の悪事も明らかにしていただいたとか……」
「……ありがと」
そう口々に礼を言われる。
だが、僕は素直に礼を受けるわけにはいかない。
なぜなら……
「いえ、気にしないで下さい。それよりも、僕らは余計なことをしちゃったみたいなんで……」
「えっ?」
「森の中じゃランドさんたちを陰から見守っていた手練れもいましたし、僕には分からないけど、おそらくこの部屋にも」
「ん。そこに」
ブランが一番壊れている壁を指差すと、ほどなくして隠れていた者が姿を現す。
「いや~、やっぱりバレてたっスか。狙われてるかなぁとは思ったんスけどね」
そう言って悪びれることなく姿を見せたのは、長身の猫獣人であった。
艶のある黒髪とスレンダーな体型、不敵な態度が有能な女スパイといった感じを醸し出している。
「【シピ】さん?」
「おっ、かがり火の店主。無事で良かったッス」
「お知り合いですか?」
「ああ、Aランクの
そう説明を受けた猫獣人――シピさんは、ブランに向き直ると軽口を叩く。
「しかし、よく分かったッスね。気配は消してたと思うんスが」
「猫臭い」
「なっ!」
ブランが横を向いて眉間にシワを寄せる。
くちゃいくちゃいと騒ぐブランが可愛らしい。
「いや、今まで犬獣人にすら気付かれなかったんスよ?」
「犬と一緒にするな」
ブランが一蹴すると、シピさんががっくりと項垂れる。
さあ、ことの経緯を聞かせてもらおうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます