第88話 俯察仰観(ふさつぎょうかん)
そのメダリオンは、白雪のように輝くミスリル製で、子供の手のひらほどの大きさだった。
表面には【不死の鳥と炎】のレリーフ――【シュレーダー辺境伯】家の紋章だ。
そのメダリオンを持つ者は辺境伯の目と見なされ、その発言は無条件で採用される。
王家から領地内の独自裁量権を認められている辺境伯であるが故に、許された制度であった。
もちろん、一度悪用されれば、辺境伯領の司法制度を崩壊させるほどの代物のため、よほどの信頼がある者にしか渡されない。
そして今、ブランから借り受けたそれを持つアリシアの手は震えている。
「アンタ、何よこれ」
「もらった」
「辺境伯様のレリーフよ!」
「問題ない」
「大ありでしょ!」
「アルが『家政婦は見る』ものだからって」
「家政婦?何よそれ」
「メイドみたいなもの?」
「何でアンタも知らないの?」
「アルはたまにネジが外れる」
「あんたもよ」
「……アルと一緒。ふふふ」
「はあ~、もういいわ。とにかく、これがあれば何とかなるのよね」
「ん」
そんな会話が繰り広げられている眼前では、ハンザやムトが衛兵に引きずられていくところだった。
やがて、衛兵の責任者がブランに頭を下げて報告をする。
「検使様、我々は失礼します。後日、お話しをお伺いすることもあるかと思いますが、その際はお手間をおかけします」
「ん」
「それでは」
衛兵が退出すると、部屋にはふたりの少女だけが残された。
見渡せば、趣味の悪い家具や置物類は全てが粉砕されている。
「ねえ、あんた。そもそも部屋をここまでしなくても、アイツらを捕まえられたよね?」
「当然」
「じゃあ何でこんなことしたの?部屋がメチャクチャじゃない」
「ん」
「わっ!こっちの壁なんて穴が空いてるし………」
「…………うわ〜、こいつぁ~うっかりだ」
「何がうっかりよ」
「アルはこれで許してくれる」
「はいはい、絶対に過ちを認めないわけね。でも、これで終わりね。あとはお父さんたちが無事でいてくれたら……」
「そっちはアルが動いてるから大丈夫」
「何でそんなに信頼してるのよ」
「あなたはアルの凄さを知らない……」
「凄さって、私たちよりも年下じゃない」
「はぁ~」
「なによ。その何も分かってないなあって顔は」
「いい?」
そうして、ブランはアルフレッドがいかに凄いのかをとくとくと洗脳……もといお話しをする。
そんな永遠とも感じるほどの時間の中、ブランたちの目の前に白く光る扉が現れる。
「ええ?なに?」
アリシアが慌ててブランにしがみつく。
すると、扉のドアが開き、中からは赤髪の少年が姿を現す。
「アル君?」
そしてその後からは恐る恐る、ランドとリサが姿を見せる。
「ア、アルフレッド君、これは……」
「あなた、ちょっと待って」
その様子を見たアリシアが、ランドとリサに駆け寄っていく。
「お父さん、お母さん!」
「えっ?アリシア?」
「あああ、アリシア………」
こうして無事に、親子は感動の再会が果たすのであった。
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