紅蓮の氷雪魔術師

うりぼう

第一部 転生輪廻

第1話 胡蝶之夢(こちょうのゆめ)

 …………夢を見た。





 とある男が炎に包まれた建物に飛び込む夢だ。


 男は鈍色に光る防火服を身に纏っている。


 真っ赤に染まった室内で、男は物陰で逃げ遅れていた少女を見つける。


 安心してと声をかけた男は、少女を抱えると侵入口に戻る。

 そこには、突入の補助にあたったバディがいるはずだ。

 男は一歩一歩確実に、侵入口までのルートを戻る。


 ―――早く。

 

 あと少しでバディのもとにたどり着く。



 ―――早く。この子を助けないと。


 そう考えたとき、突然、建物の屋根が崩れ落ちる。


 ―――崩落?


 まだ炎に耐えられるだけの強度はあるとの見込みだったはずだ。


 ―――チッ、手抜き工事かよ。


 男はそう考えて舌打ちする。


 瓦礫の向こうから、バディが自分を呼んでいる声が聞こえる。

 不幸中の幸いで、瓦礫には子供がかろうじて通れる隙間がある。

 ここを通れば、あとはバディが何とかしてくれるはずだ。


 男は抱えた女の子を下ろし、その瞳をじっと見つめて瓦礫の隙間を通るように諭す。

 女の子は残される男を気づかうが、優しく笑いかけて安心させる。


 女の子を救助したとのバディの声が聞こえた。


 男はホッとしてその場に腰を下ろす。


 既に周囲は一面が灼熱の炎であり、逃げ場はない。


 ―――隊長、怒るかなぁ。


 男の脳裏には、彼を育てた上司の顔が浮かぶ。


 特別救助隊員も要救助者のひとりだと、常日頃から何度も何度も指導されていたのだが。


 ―――最後に誰かのためになれたのだから良しとしよう


 そう考えた男に紅蓮の炎が襲いかかる。




 そして、男の物語は終わった。

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