第25話 愚問愚答(ぐもんぐとう)

「下らない質問だが、裏切った理由は?」

「金だよ。依頼人がお前を殺してくれとさ」

「拾ってくれた父さんに恩義はないのか?」

「恩だぁ?こんな辺境に連れて来られて、何を感じろと?」

「近衛をクビになった時点でお前は野垂れ死にしてもおかしくなかったんだよ。それを助けられたことも知らずに……」 

「ガキのくせにいっちょ前に世の中を語るかよ」


 こちとら前世を含めりゃ、テメエよりも年上だとは言わずにおく。

 前世ならまだ成人にも満たないガキが意気がっているだけなのだが、あまりにも世の中を知らないことにため息が零れる。

 記憶が戻って間がない僕ですら、普通に考えても、体裁や体面を気にする貴族社会で近衛をクビになったという不名誉は致命的だと理解できる。  

 言い換えれば国王から直々に役立たずの烙印を押されたワケだ。


 本来なら貴族社会は完全に手を引く案件だ。

 それをおそらくは父さんの慈悲で拾ってもらったにもかかわらずこの有様とは。


「バカすぎて呆れる」

「言いやがったなこのガキがあ!」


 少し煽っただけでこれかと、キレやすい若者に呆れるばかりだ。


 だが、腐りきっても元近衛の実力は本物。


 その殺意のこもった一撃には、かわすのも一苦労だ。


 それでもこれだけは聞いておかなければならないと、息切れをしながらも会話を続ける。


「ブランたちを攫ったのはお前か?」

「ああ、訓練でお前が廃坑に入って戻って来ないと言ったら疑いもせずにやってきたぞ」

「無事なのか?」

「さてな?廃坑の入口に捨て置いたから、もしかすると地竜に食い殺されているかもな」

「クッ!」


 それを聞いた僕は、急いで廃坑に向かおうとするが、エドガーは先回りして行く手を遮る。


「どけ!」

「どくわけ無いだろうが、バカか?依頼主からはお前を散々苦しめて殺せとの命が出てるんだよ」

「ならば俺だけ狙えよ。他人を巻き込むな!」

「何を偉そうに。ここまで来たら死ぬのは確定なんだよ。本当なら無惨に喰い殺された奴らの姿を見せて、絶望させてから殺すつもりだったが、生死も分からないままで殺すのもアリだろ」


 嗜虐的な笑みで近づいてくるエドガーに対して僕は距離を取るために後ろに下がる。


 どうやら、コイツに勝たなければ先には進めないようだ。


 僕は心を決めると腰の剣を引き抜く。


「おおっ、ようやく歯向かう気になったか。そうじゃなきゃ面白くないよな」

「黙れ糞ガキ。オレはテメエの後ろに行かなきゃならねえんだよ」 

「イイねえ、その殺意のこもった瞳。さあ、命のやり取りといこうや」


 

 

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