第98話 知己朋友(ちきほうゆう)
別の連載作品『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』が「第4回ドラゴンノベルス小説コンテスト」の最終選考に残ることができました。
興味がある方は是非ご一読下さい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★
「それじゃ、早速行ってきます」
僕はグスタフさんの部屋の中に、白く光る転移門(どこにでもいけるドアのこと)を展開する。
今回は人を連れてくるので、僕ひとりで転移することにした。
「ブラン、あとはよろしく」
「ん」
そう言って僕はドアを開ける。
「「「おおっ!」」」
背後からグスタフさんたちの驚く声が聞こえるが、そっちはブランに頼んでいるので安心だ。
僕は思考を切り替えると、光の扉を通り抜ける。
こうしてやってきたのは、ご存知【フォティア商会】の本社。
王都にある商会の一室であった。
「なっ、何者だ!……あっ、あああ。あなた様は!」
すると、突然現れた僕に驚いた貴族風の男が声を荒げる。
が、その男は何故か床に正座していた。
「あっ、商談中だった?ゴメン」
どうやらまたやってしまったらしい。
僕はいわゆる土下座姿の男の対面に座っていた【クレス・フォン・フォティア男爵】に謝罪する。
「いえいえ。というか、ものすごい偶然に驚いています」
「うん、失礼した。転移先を変えようとは思ってたんだけど……」
「そんな、アル様にお手間をかけさせるワケにはいきませんよ」
「これで破談になると申し訳無くてね」
「こんなことで腹を立てるような相手なら、こっちから願い下げですよ……ね?」
そう言って、クレスが尋ねたのは土下座している男性。
………ん?
どこかで見たような?
「はっ、はい。以前は大変失礼な態度を取ってしまい、心より謝罪いたします」
………んんん?
「お気づきになりませんか?以前にもこんなことがありましたよね?」
「はい、その節は私の無礼な態度に気を悪くされてしまったかと思います」
土下座の男が、再び床に頭をこすりつけるようにして詫びを入れてくる。
前………?
「あっ、ああああ!子爵家の者の人だぁ!」
僕はようやく目の前の男が誰であったかを思い出す。
以前に、同じように商談中に転移してしまったときの相手だ。
「だから、ものすごい偶然って言ったんですよ。ちなみに、私が好きで土下座させてるんじゃないですからね」
「はっ、はい。当時は大変申し訳ありませんでした。先代は蟄居し、今は男爵家として嫡男があとを継いでおります」
「ん?降格……か?何があったの……?」
「そこは、ヴォイド関係の……」
「ああ、奴隷市関係かぁ……」
「はい。ですが先代は貴族としての付き合いで会場に行っただけで、購入云々には関わっておらず……」
元子爵家の人が必死で言い訳をしている。
「その件は?」
「ええ、本当のようですね。ですから、奴隷に関わっていながら、当主の蟄居と降格で済んでるわけですから」
「なるほどね。で、今日はどうしたの?」
「はっ、はい。実は当男爵領に、名だたるフォティア商会に足をお運びいただけないかと思った次第でして……」
どうやら、この男性は以前のやり取りで、僕がこの商会に大きな発言力を持つと知ったようだ。
必死にアピールをしてくる。
なるほど。
最悪の事態は免れたものの、先代が当主の座を追われ、降格までしてしまったとなれば
現当主の信頼度は地に落ちたようなもの。
そこで、辺境伯に裏書きを得ているフォティア商会が出店あるいは取引先となれば、株が上がるとの目論見か。
「どうします?」
「う〜ん、そうだね……」
僕がここに来た目的を忘れて思案していると、突然部屋のドアが開き見知った女性が入ってくる。
「お兄ちゃん、アルフレッド様がいらっしゃってるって……きゃ〜!アルフレッド様あぁぁぁぁぁぁ!」
なん……だと……。
僕はこれまでに、数々の敵と渡り合って来たはずなのに、クレアの抱擁を避けられなかったのだ。
「兄貴もやっばり男ですな……」
手下……否、従業員たちからそんな声が聞こえてくる。
「明らかに動きが鈍いもんな」
「わざわざ待ってるくらいだしな」
「まあ、あの胸に抱きしめられるなら仕方ないか……」
どうやら、僕は無意識のうちに捕まるような行動を取っていたようだ。
柔らかなぬくもりに包まれる僕。
いや〜逃げられなかったら仕方ないよな。
うん。
「ああ、アルフレッド様の香りです〜。んふ〜」
なんか淑女らしくない言葉が漏れてるが大丈夫か?
そんなとき、僕の脳裏にブランのふくれっ面が過ぎる。
ヤバい。
このままだと、匂いでバレる。
慌てた僕は、傍らで苦笑いを浮かべているクレスに何とかするようにと目で訴えるが、ヤツは笑みを浮かべながら肩をすくめて首を左右に振る。
どうにもならないってど〜ゆ〜ことだ?
おい、何とかしろ〜!!
「ん〜、お日様の匂いがします。はぁ〜、癒やされる〜」
こうして僕は、クレアが満足するまで為すがままにされるのであった。
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