第196話 悪口雑言(あっこうぞうおん)
日が暮れるころになって、ようやく僕とブランは、ロイドたちと合流するために宿泊先へと足を向ける。
幽霊に出会った後、スラムの人々を治療しまくった上、パウロ大司教たちをアグニスの街から連れてきた。
さらには、大宴会を開いてスラムの住民を軒並み酔い潰すといった怒涛の展開だったけれど、振り返ってみれば、まだ1日も経っていない。
改めて、展開の早さとそれを可能とした魔術の万能さに驚きを隠せない。
それにしても、ちょっとやりすぎたかな?
いくら人助けのためとはいえ、あちこちに介入し過ぎて、多くの人の運命をねじ曲げた気もしないではない。
「エマたちが笑ってくれて良かった……ね」
そんな反省をしていた僕に、ブランがそう語りかけてくれる。
どうやら、反省しすぎてちょっと凹みがちだった僕のことを気づかって、わざわざそんなことを言ってくれたようだ。
その優しさに、僕は少しだけ気持ちが軽くなる。
「そうだね、結果的にはそれで良かったということにしようか」
「うん」
そうして僕たちは、どちらかから手を伸ばしたのか分からないほどに自然に手を繋いでは、店じまいをするのに忙しい町中を歩むのだった。
★★
「あ~っ、アニキと姉御が手を繋いでる~」
宿屋まであと少しといったところで、同じタイミングで戻ってきた【蒼穹の金竜】のメンバーたちと一緒になったのだが、開口一番にカズキがそうからかって来た。
別に~、好きなこと手を繋いで何が?
と、堂々としていた僕とは異なり、恥ずかしがりやのブランは一瞬で真っ赤になってしまった。
おいおいおいおい、うちのブランちゃんをなに恥ずかしがらせてるんだよと、剣呑な眼差しで睨み付けると、カズキはあっという間にパーティーの女子たちの口撃でボコボコにされていた。
「はぁぁぁぁぁ?バッカじゃないの?カズキ!」
「姉さんをからかうなんて、信じられない」
「だから空気読めないって言われるんだよ」
「サイテ~、死ねば?」
「ホント、マジむり~」
「はぁ~、だるいわ」
次々に飛び出す悪口雑音にガックリと打ちひしがれるカズキ。
「そこまで悪いことをしたのかよ……」
カノンとマヤに、まるで汚物でも見るような眼差しで見つめられた少年は、力なく項垂れる。
すると、そんなカズキの肩をソウシがポンポンとたたく。
カズキが顔を向けると、そこには満面の笑みを浮かべたリーダーの姿。
「あああ、ソウシ~、お前だけは分かってくれるよな~」
男どうしだし、自分のオチャメな気持ちを理解してくれたのだとカズキは喜ぶ。
だが、その後に続いたソウシの言葉は予想外だった。
「どうしていつもいつもガキみたいなことをするんだ?そもそも兄貴と姉御がいちゃついてるのをからかうなんて自殺行為だろ?バカなの?死ぬの?死ぬなら自分だけで死んでくれるか?お人好しの兄貴はともかくニコニコしてる姉御の機嫌を
「………………はぁ?」
スンとした悟りきった表情でそうまくしたてるソウシに呆気にとられたカズキ。
そしてその直後、頭に軽い衝撃を受ける。
どういうことか頭が動かせないため、カズキがおそるおそる視線だけを上に向けると、そこには魔術で宙に浮いたブランが、自分を無表情で見下ろしながら頭をワシ掴みにしている姿が目に入った。
「ひいいいいいいいいいいいいい!!」
カズキは何か言い訳をしようとするも、明らかに怒っているブランを前にしては、舌も回らない。
「ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい。ほどほどにね」
「ん」
ブランが僕にそう告げるので、快く送り出してあげる。
「兄貴ッ!兄貴ッ!兄貴ィィィィ!!」
どこかから悲鳴が聞こえるが、気にしない……気にしてはいけない。
かなり怒ってるもんなぁ……。
だからあれほど『口は災いの元』だって教えたのになぁ……。
僕は、自分たちに火の粉が飛び散らずにホッとするソウシたちと、ズルズルと町中を引きずられていくカズキを見送る。
「危なかったぁ……」
「ホントにバカなんだからアイツ」
「デリカシーがないなんてサイテー」
ソウシたち残りのメンバーは、難を逃れた幸運を噛み締めるように息を吐き出す。
そんな三人のうち、ソウシの肩にポンと手を置く僕。
何かあったのかと振り返った彼に僕は語りかける。
「そういえば、さっき『お人好し』がどうかって言っていたようだけど……?」
それから青ざめた顔をしたソウシが平謝りするまで、たいした時間はかからなかった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
人の悪口や、からかうことはいけませんよといえ教訓でした。
まぁ、アルはどっからどう見てもお人好しなので、ソウシたちの意見は正しいのですが、面と向かって言われたら、そりゃあ怒りますってことですね。
モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューでの評価していただけると幸いです。
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