第43話 創造魔術(そうぞうまじゅつ)

「何を、するんだ」

「てめえ!」

「でも、あったけえ……」


 僕は、そんな少年たちの声を無視して【創造(クレアーレ)】の魔術で隠れ家を拡張する。


「なっ、何だこりゃ?」

「えええっ、勝手に穴が空いていく」

「こっちには壁?」

「「「なんだこりゃー!!!」」」


 少年たちが騒ぐが非常事態だ、少し我慢してもらおう。

 何しろ、ウチのブランが臭いに耐えられなくなりそうだからだ。

 いくら【消臭(デ・オドラント)】の魔術を唱えても、元を絶たないと臭いは収まらないんだから。


【創造(クレアーレ)】は、思うがままに事象に干渉する魔術。

 イメージとしては、粘土で好きなものを作り上げる感覚。


 そこで僕は隠れ家の隣に浴室を作ることにした。

 土を掘り、浴室や浴槽を作る。


 きちんと排水も流れるように作る。

 領都フレイムはきちんとした下水道が完備されているので、そこまで排水溝をつなげる形だ。

 もちろん、男女別にするためにふたつ作る。


 ちなみに、更衣室も併設するため隠れ家の隣に合計4つの小部屋を作ったりした。


「ブラン、お湯をお願い」

「……ふあい」


 ウチの相棒は鼻をつまみながら返事をする。


「【湯弾(はりは・はくは)】」


 ブランは鼻をつまみながら魔術を展開する。

 発音が悪くなっているが、要はイメージさえ出来ていれば良いので問題なく発動する。


「おい、貴族様は無詠唱だぞ」

「獣人の子なのに魔術?」

「何でなんで?」

「たぶん、これは夢なんだ」

「…………お湯をかぶって温かいけど」


 少年たちが騒然となっている隣では、みるみるうちに浴室ができていく。 

 


 やがて、前世で言えばビジネスホテルくらいの大きさの浴室が完成する。


「すっ、すげえ……」

「何よこれ」

「こんなにすごいのかよ、魔術師って……」


 少年たちは、驚きに口をポカンと開けたままあ然としている。


 そんな少年たちに、ブランは胸を張って自慢する。


「ほれはちがふ。アルフレッドたから」


 でも、鼻をつまみながら話すから意味が伝わらないよね。

 イマイチ反応が鈍い少年たちに、自分の言葉が届いてないと気づいたブランは、恨めしそうに僕を見つめる。

 …………はいはい【消臭(デ・オドラント)】


 魔術を展開すると、再び無臭になる。

 

 ブランは、コホンと一つ咳ばらいをすると、もう一度胸を張って自慢する。


「それは違う。アルフレッドだから」 


 さっきの言葉はこれだったんだと、納得する少年たち。

 それをじっと見つめるブラン。


「お……おお、すげえ」

「……さすがアルフレッド様」

「こんなに自由に魔術を使いこなすなんて……素晴らしい!」


 なかなか空気が読める少年たちのようだ。

 改めて驚いたフリをしてくれることに好感が持てるよ。


 その様子を見てブランが満足そうにうなずく。


 良かったな君たち。

 ウチのブランにも認められたようだよ。


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