第175話 師資相承(ししそうしょう)

 晴れ渡る空、澄みきった空気、天に昇る太陽が燦々と街を照らす。


 火の竜ファイアードレイクを氷漬けにしてから一週間。


 僕とブランは、あの日に襲撃を受けて中断された大聖堂や教会群のお披露目にやって来ていた。

 本来なら、再度お披露目をするなんてあり得ないことなのだが、教会の信徒や街の人々からの強い要請があってこうして挙行されることとなったのだ。


 曰く、街の英雄が不在で式典になるか、と。


 それを聞いた僕は、ブランと一緒にもたらした人々の笑顔に達成感を抱く。

 素直に、生命を賭けて戦った甲斐があったと思う。


「あらあら、立役者がやってきたわね」

「いやぁ、キレイな格好ッスねぇ」

「まあ、この街の英雄だからね」


 そんな僕らに声をかけてきたのは、【深淵】ミネットさんと【潜影】シピの師弟コンビと、【神弓】カレナリエルさんのアグニスの街が誇る高ランク冒険者たち。

 僕とブランを見つめる目が、とても楽しそうだ。


 彼女たちは他の高ランク冒険者たちとともに、大森林の深層に現れた【邪龍アジ・ダハーカ】を討伐に向かったのだが、ここ一番での決め手に欠き一時撤退をしてきたところだった。

 どうやら、火の竜ファイアードレイクが浅層までやってきたのは、この戦いの余波から逃げてきた結果のようだ。


 僕たちが死に物狂いで倒した火の竜ファイアードレイクが逃げ出すほどの戦闘ってどんな災害だよと思わなくもないが。


 とにかく、帰ってきたカレナリエルさんたちは自分たちの戦いがアグニスの街を危機に曝したと知って深く落ち込んだらしい。

 そして、僕とブランの奮闘により奇跡的に犠牲者がゼロだったと聞いて、今度は喜びを爆発させるに至った訳だ。


「英雄コンビには助けられたね」

「そうねぇ。もしも犠牲者が出てたら、どう詫びたらいいか分からなかったもの」

「そうッスね。壊れたものならば直せばいいッスけど、生命ばかりはかけがえのないものッスからね」

「あら、じゃあ壊れた街の復興費はシピが出すのね?」

「へっ?それは、稼いでる師匠が……」

「あんただってAランク冒険者でしょうが」

「いや、それは……ちょっと……。最近、少しばかりですね……」

「なに、またあんたは博打で負けたの?」

「ちょっ、ちょっちょっ……。人聞きが悪いッスよ……」


 そんな師弟漫才に笑顔を浮かべた僕たちに、改めてカレナリエルさんが頭を下げる。


「重ねてお礼を言わせて欲しい。君たちのおかげで助かった。しかも、街の復興に竜の素材まで提供してくれたとは…………」

「いえいえ、もうそこまでしてくれなくても大丈夫ですって。それに……力ある冒険者だったら当然のことですよね?」

「ん?」

「きっと、今回のことのようなときがあれば、カレナリエルさんだって同じことをしたでしょ?弱きを助け強きをくじく――それが冒険者の本懐だって」

「ああ……、ああ、そうだね」


 一瞬、何のことかと戸惑ったカレナリエルであったが、それがかつてとある将来有望な冒険者に教えた言葉だったと思い出す。


「それは……、それは僕が、君たちの親に指導した言葉だね。冒険者として一番大事なことだ。そうか……君たちはそんな想いを受け継いでくれたんだね」


 彼女はそう言って、満面の笑顔を見せるのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


何度やってもまとまらない。

さらに最終回まで一話増えました(汗)



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