第55話 仮説検証(かせつけんしょう)

 僕は考えた。

 魔術はイメージ次第でいかようにも変化をするし、誰でも使いこなすことが出来るのでは、と。


 実際、古来から魔術は使えないとされていた獣人ですら、ブランという実例があるように魔術が使えるのだ。

 ならば、貴族の生まれでなくとも魔術は使えるのではないかと考えたのだ。


 つまり、貴族に魔術を使える者が多いのは、魔術を間近で見る経験が、平民のそれより多く、よりイメージをしやすい環境にいるからだと考えたわけだ。

 赤い髪が火焔魔術に適性があるだとか、青い髪が氷雪魔術に適性があるとかいう話も、その延長上にある話だと思う。 


 この仮説を、プレセア先生に話してみたところ、鬼のような形相で止められた。


「いい?アナタの仮説は、血統主義に真っ向からケンカを売ってるようなことよ。アナタが言うのならおそらく、その仮説のとおりでしょう。でもね、魔術を権威付けの一環として誇っている者にとっては、決して受け入れられない話よ」

「権威付け……?」

「ええ、現在の国王陛下は完全実力主義だから、そんなことは関係ないでしょう。でもね、失礼かも知れないけどアナタのお祖父様や、一部の血統主義者にとっては、都合が悪いのよ」

「うわぁ、マジか……」


 思わず口汚い言葉が漏れる僕。

 プレセア先生は、さらに話を続ける。


「最悪な場合、アナタは殺されるわ」 

「まさか……」

「いえ、間違いなくね。貴族連中の自己保身能力は異常よ。平民で魔術が使えた私を、わざわさ養子として引き取るくらいね」 


 なんと、プレセア先生は元平民だったことが明らかになる。


「それって、聞いてもいい話ですか?」 


 思わず、そう尋ねてしまうほど衝撃的な事実に、恐る恐る尋ねる僕。


「構わないわよ。私も母も今のお義父さんには良くしてもらってるしね。ただ、貴族連中というのは自分たちの体裁を整えるためなら、何でもやるってことだけは覚えておいて。もしも、どうしても実験がしたいなら、絶対に外部に情報が漏れないようにすること」

「情報流出への対策ですか……」

「どうせ、オリジナルの魔術をちゃっちゃと考えちゃうんでしょ?」

「何か扱いが酷くありません?」

「私は自分よりも魔術の実力が上の人には遠慮しないことにしてるの。絶対に、その人よりも上に行ってやるって気持ちを萎えさせないためにもね」 

「その考え方って良いですね。僕も真似しようかな?」

「アナタより上の人なんて、この世にいるわけないでしょ」


 そう言って先生は、苦虫を噛み潰したように笑うのであった。




 そして僕は、スラムの子どもたちの協力を得て、実験に取り掛かったのだった。


「力が..….欲しいか……。力が欲しいのならくれてやろう!!」


 クリフが集めたスラムの少年たちを前に、僕は厳かにそう言ったのだが、みんな口を開けてぽかんとしていた。

 こんな時は「欲しい!!」と絶叫すべきではないだろうか。


 当てが外れて挙動不審に陥った僕を、ブランが生暖かい眼差しで見つめている。


 ゴメンよ。


 ちょっとだけ、テンションが上がっちゃっただけなんだ。


 仮説上は、何の危険もないはずだった。

 だが、そこはおそらく世界初の試み。

 どんな不確定要素があるか分からなかった。


 そこで僕は、スラムの子どもたちに、この実験について事細かに説明するとともに、多少の危険性もあることを告げた。


 しかし、劣悪な環境から這い上がろうとの志を持った子どもたちは怯むことすらしなかった。

 集まった全員が強い意志で、実験を乗り越えたのであった。



 こうして、何やかやあったものの、最終的にはクリフやスラム街の子どもたちは、魔術を取得することが出来たのだった。


 そこに至る過程で、母上には僕が無詠唱で魔術を使いこなせること、この実験次第では平民でも魔術が使えるようになることを説明して、協力を得たのであった。


「どうして、アーサーにはそのことを伝えないの?」


 そう尋ねる母上に、いずれ父親を倒すために力を蓄えている途中だと力説したのは、今になって考えるとやけに痛々しい。

 母上、その節はお世話になりました。



 これで僕の仮説は、正しかったことが証明された訳だ。


 だだ、予想と違ったのは、スラムの子どもたちは、それほど多種類の魔術は覚えられなかったことだ。


 多くても三種類。

 たいていは、一種類の魔術だけ。


 しかも、詠唱は必ず必要で、詠唱破棄はおろか、無詠唱なんて夢のまた夢の話であった。

 もっとも、こういうものだとゴリ押しして詠唱短縮で魔術を使いこなせるようにはしたのだが。


 もちろん、情報が外に漏れることへの対策は徹底した。

 それが、僕が編み出した【強制ギアス】の魔術だった。 

 第三者に魔術に関する話をしようとした場合や、自らの欲望を満たすためだけに魔術を用いた場合、一瞬で魔術や僕らに関する記憶を失うようにしたのだ。

 もちろん、魔術を使っていたときの記憶も忘れるのだから、二度と魔術を使うこともおぼつかなくなる。


 クリフが選別したとは言え、やはり良からぬコトを考えた者は少なからず存在した。

 魔術実験を金に替えようとしたり、せっかく覚えた魔術を、欲望や復讐心を満たすために用いようとした者。


 そんな者たちは、もれなく記憶を失ってスラムから去っていった。


 この日、【仮面騎士ペルソナエクエス】たちとともに【商人王】クヌートの屋敷に突入した戦闘員――否、フォティア商会の従業員は、そんなアルフレッド・チルドレンたちなのであった。



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