第208話 敵対宣言(てきたいせんげん)

「えっ……?いや、いや違います!いや、違うのです!私は、私はあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


 自分が仕出かした愚行を指摘されたドワンは、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながらみっともなくパウロ大司教の足元にすがりつく。

 

 信仰心に乏しいとは言え、ドワンもまた【神聖サンクトゥス教】の信者のひとり。

 そんな男が、感情のおもむくままに、教会の指導者たる大司教の言葉をアタマから否定するという行為は、決して認められるものではない。

 場合によっては異端審問にかけられてもおかしくないほどの悪行だ。


 ドワンとともにやって来た仲間たちは、自分のところに飛び火することを怖れて、誰も口を出すことすらしない。


 不本意でも不恰好でも不体裁でも、必死に謝罪をして赦しを得ることしかドワンの未来は残されていなかった。


 祭服に取りすがって泣きわめくドワンに、さしもの大司教も表情を強ばらせるも、すぐに平静さを取り戻しては優しく告げる。


「安心して下さい。私は貴方の罪を赦します」

「えっ?ああああ、ありがとうございます。ありがとうございます」


 思ったよりもチョロいなと内心ではほくそ笑みながらも、ドワンは何度も何度も感謝の言葉を繰り返す。

 まっとうな商売をしてこなかった彼にとって、泣いたや反省したなどは容易いこと。

 そして、このような状況では無様な姿を見せた方が、同情を買いやすく赦される可能性が高いことを知っていた。


(勝った!)


 己の失態を何とか挽回できたと確信したドワンの耳に、パウロ大司教の言葉が届く。


「ですが……」


 想定外なことに慌てて大司教を見上げたドワンは、続けられた話に愕然とする。


「ですが、【聖者】アルフレッド様と【聖女】ブラン様は、貴方たちの商会フィデス商会を決して許さないと仰っていましたよ」

「…………はぁ?」


 どうして自分、いや自分たちの商会は見ず知らずの【聖者】たちに目の敵にされているのだろうかと理解が及ばないドワン。

 パウロ大司教はそんな彼に、説明をする。


「聖者様からの言葉ですが、『不当廉売ダンピングで町の人々を苦しめたことは絶対に許さない』とのことでした。貴方たちがしたことを見抜いておられるようですね」

「ば、バカな……」

「誰にも気づかれないと思っていましたか?聖者様はお見通しでしたよ。最初にどこよりも安い価格で商品を販売しても、競合する他の店を潰した後ならば、いくらでも値段設定は可能ですからね。貴方たちはそれをしてこの町の商売を、果てはこの町自体を支配することに至った、と」


 ドワンたちが行ってきたことを的確に指摘されて、せわしなく視線が周囲をさまよう。


「だからこそ、私たちは宣言します。これから私たちはこの町の経済が正しく回復するまでの間、バザーでここにある品々を


 その宣言に、ことの成り行きを見守っていた町の人々から歓声が上がる。

 もうこれ以上、フィデス商会の顔色を窺って日々を過ごす必要はないと言われたようなものだったからだ。


「くっ……。だ、だが、王都と同じ価格などあり得ないことだ……い、いやあり得ないことです」


 ドワンが言っていることは正しい。

 いくらなんでも、こんな辺境の地で王都と同じ価格で販売し続けることなどあり得ないことなのだ。

 単に物を僻地に運ぶだけでも、とんでもないほどの輸送費がかかるからだ。

 適正な価格は、王都の1.5倍から2倍といったところだろうか。


 ゆえに、この地で王都と同じ価格で販売するとなれば、どれほどの赤字になるか想像すらつかない。


「そんなことをすれば、あっという間に教会も干上がってしまうでしょうよ」


 余計なことを言われて、町の者たちに希望を持たれては堪らないとばかりにドワンは反論をする。

 だが、パウロ大司教の表情は変わらない。


「ひとつお教えしましょう。聖者様と聖女様は伝説と言われた【転移メタスタシス】を使えます」

「転移だとおおおおおおおおおおおッ!?」

「ええ、本来なら私はこの地よりも遥か南にある、ヴルカーン地方にあるアグニスの町に駐留する立場。わざわざ聖者様が【転移メタスタシス】の魔術で迎えに来て下さったのですよ」

「そんな……ことが……」

「おやおや、お仲間の門番からは聞いていませんでしたか?私や共の者たちが、この町に入った記録がない、と?」


 ドワンはその言葉を聞いて全てを理解する。


 どうしてこんな教会に唸るほどの品々が保管されていたのか。

 そして、それほどの品々がこの町に入って来たにも関わらず、門番たちから自分の耳に何の連絡もなかったこと。


 それはすべて【聖者】と呼ばれる存在が【転移メタスタシス】の魔術を使えるということの証左。


「そ、それでは……、今後も……」


 そして、それが意味することは。


「ええ、この倉庫の品々が無くなって来たら、また持ってきて下さるそうですよ。から」


 パウロ大司教の言葉にガックリと膝を落とすドワン。

 それならば、この町で王都と同じ値段で品々を販売しても問題はないはずだ。

 ドワンは、これから自分たちの商会の品々がまったく見向きもされなくなるであろうことを予想する。


 誰もが、こんなに高い値段で態度も悪い店から品物を購入しようなどとは思うまい。

 だからと言って、教会のバザーと同じ値段にすれば、自分たちの方は輸送費という面で赤字になるだろう。


 もはや、絶体絶命。


 真っ青な顔をしてうなだれているドワンの背に、パウロ大司教の言葉が届く。


「曰く、聖者アルフレッド様からです。『これから、経済という場での戦争だ。お前たちがやって来たことを、そっくりそのままやり返そう。その身でしっかりと味わうがいいさ』」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


アル「干からびるまで、何度も補充してやんよ!」٩(๑•̀ω•́๑)۶ドヤッ

ブラン「アル、かっこいい!」キュンキュ-(⸝⸝⸝°◽︎°⸝⸝⸝)→ン

パウロ「やれやれ、ここでもイチャイチャですか……」フーʅ(๑ ᷄ω ᷅ )ʃヤレヤレ


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