第170話 青木凪沙は寂しい
おにいはいつも先に行ってしまう。
私が高校生になったと思ったら、おにいは一年で卒業する。
中学生の時もそうだった。
小学生の時は四年間一緒だったけど、二つも学年が違えば学校で会う機会なんて少ない。
でも私はそんなおにいに早く卒業してほしいとも思っている。
「……だって、あんなに頑張ったんだもん。大丈夫……だよね?」
私はそうやって独り言をつぶやいてから、一段一段と階段を昇る。
昇り切った先にあるのは家の近所にある神社だった。
そこで鐘を鳴らしてお賽銭を入れる。
二礼二拍手一礼をし、私は頭の中でお願いごとをする。
こういう場は本当はお願いをする場ではないということを聞いたことがある。でも、今の私にできるのはこれくらいだ。
長く長く願いを込めて、念入りに手を合わせた。
次に向かうのは……御守りが売っている売店だ。
「学業成就と……交通安全の御守りをください」
学業成就だけでもいいとは思っているけど、去年のお返しと言ったところだった。
おにいは去年、私が高校受験をする時に学業成就の御守りと一緒に、交通安全の御守りもくれた。
ないとは思っているけど、受験に向かう時に事故に遭わないとも限らない。
しっかりしているように見えるおにいだけど、案外抜けているところもあるんだから。
「すいません、あと絵馬もお願いします」
御守りを用意してもらっている間、周りを見てみると絵馬がかけてあるのを見つけた。
戻って来た巫女さんには悪いと思いながらも、私は追加でお願いする。
私は迷わずペンを走らせて、『おにいが合格できますように』と書く。
「……っと、忘れるところだった」
最後にフルネームを付け加えた。
絵馬をかけ終えて、私は神社を後にする。
その直前に私は立ち止まった。
「なぎができることはやったよ。……あとはおにい次第だから。応援してる」
本人には言えないようなことを、神様に伝えるようにつぶやいた。
私はおにいのことが好きだ。
たまに馬鹿なことをしている時は正直に言ってめんどくさいけど、普段はいい兄だと思っている。
そんなおにいが変わったのは、花音さんと出会ってから。
少し寂しくもあり、嬉しくもある。
本当は一番仲が良かった双葉ちゃんと付き合うのかなと思っていたし、友達で先輩な双葉ちゃんのことを応援していたりもした。
でも、おにいが幸せならそれでいいとも思っている。
私や双葉ちゃんといる時とは違う顔を、花音さんといるときに見せる瞬間があるのだから。
花音さんはいい人なことを知っているから、双葉ちゃんが失恋したことを知っても憎めない。
それどころか、花音さんがいてくれておにいが楽しそうにしているのを見ると、これでよかったのかもしれないとも思っている。
「いつかお姉ちゃんって呼ぶのかなぁ……」
恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
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