第160話 かのんちゃんは耐え難い
「うー、寒い」
「だなぁ……」
だんだんと冬も深くなっていく。
受験が近づいた俺たちだが、今のところできるのは、勉強、勉強、勉強だけだ。
すでに受験を終えている生徒もいるが、俺たちが目指しているのは一月に行われる共通テスト……以前はセンター試験と呼ばれていたテストだった。
その共通テストだけで合否も決まることもあれば、共通テストの結果を使わずに大学独自のテストで試験をしたり、両方の結果を用いて合否判定されたりと様々だ。
ある意味、俺たちにとっての第一関門と考えてもいいかもしれない。
そして、共通テストまであと一ヶ月半と、すでに二ヶ月を切っていた。
そんな俺たちだが、今日の放課後は花音の家で勉強をしようと、学校を後にしていた。
「冬って言ったら、何思い浮かべる?」
「受験」
「それもそうだけど……イベントごとって言うかさ」
「クリスマスと正月だなぁ」
「だよねぇ」
「あっ、クリスマスもまた予定建てないとだな」
「またサプライズ?」
「流石に二年連続だとバレるだろ」
「確かに」
クリスマスの十二月二十五日は花音の誕生日だ。
去年は花音から誕生日を聞いていなかったこともあって、クリスマスパーティーからのサプライズバースデーパーティーを慣行できた。しかし、去年してしまっているため、今年に同じことをするのは難しい。
それに……、
「できれば、二人で過ごす時間も欲しいしな」
「……うん」
言っておいて、俺は照れていた。
冬の寒さに負けないほど顔が熱い。
そして花音の方も、俺に負けじと顔を赤くしていた。
付き合って初めてのクリスマス。……そして花音の誕生日。
どんな日にしようか、俺は楽しく頭を悩ませていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
花音の家に到着し、さっそく勉強を始めた。
しばらく勉強を続けた後、休憩がてら花音が温かい飲み物を入れてくれる。
……おそろいのマグカップに。
以前に買い物に出かけた際を除けば、一日中遊びに行く時間は取れなかった。
しかし放課後には何度か二人で出かけ、息抜きをしていた。
その際にマグカップも一緒に買ったり、花音のおすすめのマンガを買ったり、花音は花音で俺とバスケをするためにシューズを買ったりとお互いがお互いに染まり始めていた。
付き合うというのはどういうものか正直わからない。
ただ、お互いに好きなものを共有し、少なくとも理解したいと思っていた。
「勉強順調そう?」
「どうだろ……。前の模試だと、C判定だったからなぁ……」
大学受験の模試でよく聞く判定だが、Aだと80パーセント以上、Bだと60から80パーセント、Cは40から60パーセントでDが20から40パーセントとなっている。
つまり俺はC判定のため、大体半分くらいの確率で合格するかどうかということだ。
「まあ、私も今回はA判定だったけど、前はB判定だったから油断はできないんだけどね」
「結構ギリギリだな」
「そうだねぇ……」
受験まで残り時間は少ない。
俺たちがどれだけ勉強を頑張っても、他の受験者も勉強をしている。
これだけ頑張れば受かるなんて保証はどこにもなく、不安の中で勉強をし続けなければいけない。
「もうちょっと根詰めないとな」
「そうだけど、やりすぎは禁物だよ?」
「……気を付けます」
俺は一度熱中してしまうと、想像以上に無理をしてしまう。
自覚はなかったが、周りから見るとそうらしい。
そして、受験勉強真っただ中だった秋に付き合い始めたのだが、意外とそのおかげで上手く勉強ができていた。
花音が上手く俺にストップをかけてくれるため、俺は無理をすることはない。
花音も花音で俺が集中しているところを見ていると集中力が上がるらしく、相乗効果を生んでいた。
ただ、付き合い始めたことで悩むこともあった。
それは……、
「……ねえ、颯太くん」
花音はそう言って近づいてくる。
勉強が一段落して、お互いにリラックスしている状態だ。
今まで勉強に意識がいったいた分、休憩時間の今は花音の方に意識を向けていた。
「……花音」
俺も近づいてくる花音を受け入れる。
そして方が触れ合うほどの距離まできた。
目を合わせながら徐々に近づいてく。
……だが、俺はふと我に返った。
「だ、ダメだ」
「あっ……」
花音は寂しそうに声を上げるが、花音も花音でわかっていた。
「受験終わるまでは、まだ……な?」
「……うん。しょうがない……よね?」
「ああ、もう少しだけな?」
俺たちは、受験が終わるまではこれ以上関係を進展しないことを約束していた。
以前はその場の空気や流れで思わずキスをしてしまいそうになったが、それから話し合った結果、お互いに納得した上で決めていたのだ。
受験で勉強に集中しないといけない中、一度でも花音とキスでもしてしまえば、俺は花音の子と以外を何も考えられなくなってしまうだろう。
……花音に溺れてしまうのだ。
それがわかっているから、同じ大学に行くために一線を引いていた。
「じゃあ、ちょっとだけ颯太くんを補給させて」
「お、おう……」
言い方が俺の理性を刺激するが、何とか踏み止まる。
花音はゆっくりと俺に抱き着いた。
柔らかさと香りでおかしくなりそうだが、俺は何とか受験が終わるまで耐えしのぐしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます