かのんちゃんはからかいたい！〜「勘違いしないでね？」と言う学校一の美少女がからかってくる〜

第22話 かのんちゃんは知りたい！

　服を見に来た。それだけならまだいい。

　ただ、選ぶのはまたわけが違った。

「ねえ、これとかどうかな？」

「んー……いいんじゃない？」

　曖昧な返事を返すと、花音はむくれてしまう。女子の服を選ぶという経験がない俺は、その良し悪しがわからなかった。

「俺のセンスなんて当てにならないし、自分で選んだ方が良くないか？」

「人の意見も聞きたいの！」

　言いたいことがわからなくもないが、それは難易度の高いものでもあった。

　以前見た時にも思ったが、花音の私服はセンスが良い。

　俺はいつもシンプルな服装をしており、今日も白シャツの上に黒のパーカーを着ていて下は黒いスキニーのパンツだ。お洒落な花音と遊ぶということもあってクリーム色のチェスターコートを新調した。ネットで『メンズ　ファッション　冬』と検索して出てきた服装を真似、持っている服と足りないコートを新調したという形だ。

　花音の今日の服装はクリーム色のニットのワンピースとシンプルだが、アクセントに大きめのストールを羽織っている。以前は様々な色を使った組み合わせだったため、どんな服でも着こなしてしまうだろう。

　確実にファッションセンス上級者は花音の方だ。俺が選んだ服よりも花音が選ぶ方が良いものになるだろう。

　そう考えていたが、花音は主張する。

「青木くんに選んでもらった方が客観的に見れるし、男子目線の意見も欲しいの！」

「ああ、うん。わかったよ……」

　花音に気圧され、俺は頷いた。

　他にもセンスの良い男子はいると思うが、俺を『友達』と強調する花音のことを考えると服を選んでもらうような男子はいないのだろう。周りにいたとしても気を許していないのかもしれない。

「青木くんはどんな服が好み？」

「好みとかは特にないんだけど……これとかは？」

　俺は悩んだ末に出した答えは、今まで見たことがある服装を提示することだった。かと言って実在する女子の服装を真似てしまえばどちらにも失礼だ。実（・）在（・）し（・）な（・）い（・）女（・）の（・）子（・）が（・）着（・）て（・）い（・）た（・）服（・）を俺は提示した。

「あんまり着たことないかも」

　その服の見た目は薄めのピンクのインナーに黒のスカートで、スカートには肩掛けの紐が付いている。一見別の服が組み合わさって見えるが、一体型のワンピースだ。胸元には白いフリルと黒のリボンも付いていた。

　姫系の服というようなものだ。

「一回着てみるね」

　そう言って花音は試着室に入った。

　待っている間、当然俺は一人取り残される。非常に気まずい時間だ。

　男女両方の服が置いてある店ではなく、今いるのは女性専門の洋服屋だ。入る際も気まずかったものの、花音と一緒にいればまだ耐えられた。しかし、試着の時間は一人となるのは盲点だった。

　着替えの時間は長くはないものの、十分は経ったように感じる。本当は恐らく一、二分くらいだろうか。

　カーテンを開けると、俺が選んだ服を着た花音が姿を現した。

「……どうかな？」

　顔の印象や性格の雰囲気はもちろん、明るい栗色の髪の毛の花音は似合っていた。

　はっきり言って可愛い。

「似合ってるよ」

　イメージとは少し違ったが、ふわふわとした雰囲気の緩い姫みたいだ。ただ、『アニメ好き』という内面を知っているために、完全にオタサーの姫にしか見えなかった。

「んー……他のも着てみたいな」

　そう言って花音は再び元の服に着替え直す。どうやらお気に召さなかったようだ。

　その間に俺は店内を見回す。何度も着替え直すのは面倒なため、二着ほど試着室に持って入った方が効率的だ。

　先ほど見ていた時に気になった服があったため、それは第一の候補だ。そして花音が試着室から出てくると店内を見て回り、二着を選んで花音に提示した。

「これならイメージに合ってるかも」

　花音は二着を持って再び試着室に入る。微妙な反応だった一着目とは違い、二着目と三着目は納得がいく様子だ。待っている時間も俺は少し楽しみになっていた。

「どうかな？」

　二着目を着て出てきた花音は、首元には襟がありスカートはフリルとなっている純白のワンピースの上にピンクのカーディガンを羽織っている。

　やはりこれもイメージとは違っているが、それでも花音は上手く着こなしていた。

「いいね。清楚な感じがする」

「む？　それって普段は清楚じゃないってこと？」

「いやいや、そういうわけじゃ……」

　あくまでもイメージの話だが、黒髪の人が清楚なイメージが強い。特に黒髪ロングで髪艶（かみつや）のいい人が、だ。花音は栗色と、明るめの髪色をしているため、清（・）純（・）そうだが、あまり清（・）楚（・）という感じではない。

　ただ、それも純白のワンピースによって清楚な雰囲気が強くなっていた。

「生徒会長とか学級委員長とかって、黒髪ロングじゃない？」

　ふと思い出したアニメのキャラのイメージをそのまま言うと、花音は生唾を飲み込んだ。

「……確かに」

　顎に手を当てて、盲点だったと言わんばかりに真剣な表情を浮かべている。

　こんな説明で納得がいく花音も花音だが、イメージの伝え方からして俺も花音や虎徹に毒されているのかもしれない。

「じゃあ、もう一着も着てみるね」

　そう言って花音は再び試着室のカーテンを閉める。

　ワンピースは脱ぎやすいのか、今度は早くカーテンが開いた。

「私のイメージに合うかわからないけど、どうかな……？」

　不安そうな表情をする花音は、着てみてから中の鏡で自分の姿を確認したのだろう。緩い服を着こなす花音にとって、いつもとは違うコーディネイトだ。

　上はイメージ通り、花音が着そうな緩いハイネックのグレーのニットだが、下はイメージには全くないシンプルな黒のタイトスカートだ。タイトスカートはオーバーサイズではなくジャストサイズのため、体の一部分の綺麗なラインが見える。それが見たくて選んだわけではないが、程よい腰周りにドキドキしてしまう。

「……青木くん？」

　花音は怪訝そうな表情を浮かべている。見惚れていて反応に遅れた俺は、慌てて感想を述べた。

「い、いいんじゃないかな？　それに黒のタイツとか履いたらもっといいかも！」

「……春風さんも履いてたけど、青木くんって黒タイツ好きなの？」

「べ、別にそういうわけじゃない！」

　俺は思わず反論するが、言われてみれば双葉も黒タイツを履いていた。ただ、それは双葉が自分の意思で履いてきたものであって、俺の意思とは全く関係ないものだった。

　無論、黒タイツは好きだ。隠すものではない脚だが、それをあえて隠すことによって特別感が増す。それに、透き通った白い肌をしている花音が黒タイツを履けば、それだけ肌の白さが強調されるだろう。

　俺は色白が好みなのだ。

　それだけでなく、大人な女性が好きだ。重要なのは、『年上』ではなく『大人』な女性だ。つまり年上でも好みから外れる場合もあり、逆に同級生や年下でも好みとなることだってある。あくまでもイメージとしての話だが、黒タイツは大人なイメージがあった。

　普段は可愛らしいという印象の花音だが、今の花音には妖艶さが加わっている。

「んー……、これは私も着たことなかったけどいいなって思ったから、一着くらい持っててもいいかも。これ買おっかな」

　そう言った花音は試着室に入り、出てきた時には元の服に戻っていた。そして三着目をレジまで持っていく。

　こんな簡単に決めてもいいのだろうか。そう考えたが、一着目は難色を示していた花音が購入を決めたのだからいいのだろう。

　少なくとも、『俺が選んだから買った』なんて気を遣われている様子はなかった。

　レジから戻ってきた花音は満足そうな表情を浮かべていた。

「選んでくれてありがとうね」

「どういたしまして」

　俺の力というよりもネットの力だが、花音の感謝の言葉は素直に受け止めた。もし、ネットがなければ酷い服を選んでしまっていただろう。

「それにしてもさ……」

「ん？」

「一着目と二着目って、あのアニメとあのアニメのキャラのだよね？」

　花音は具体的なキャラの名前を言うと、それは俺が参考にしたキャラと一致していた。知っている人からすると、やはりわかるものなのだろう。

「だけど、買ったこの三着目だけわからないんだよね。……青木くんの趣味？」

「趣味じゃないよ！」

　俺は即答で否定した。

「自分の服を買う時に女性ものの服も出てきたからそれを参考にしただけ！」

「ふーん……そうなんだ」

　意味ありげな視線を向ける花音は、まだ疑っている様子だ。

　ただ、嘘は言っていない。今着ているコートを買う際に、色々なワードで検索していたため女性ものも出てきたのだ。具体的には『冬　大人　ファッション』と調べた際に出てきたものだ。

　ここまで詳細に覚えていること、花音に着せる服として選んだこと、それは俺の好みの服だからだった。