第163話 井上若葉は物申す!
「ようやくプレゼント交換だよ!」
俺たちは話しながらピザを食べ終えると、少しの時間をおいてからプレゼント交換に移る。
再び若葉のテンションは最高潮に達しており、ノリノリで音楽をかけ始める。以前と同じように曲が終わるまでプレゼントを回し、最後に持っていたものが自分のものになるという方式だ。
「ふんふんふふーん」
曲に合わせて若葉は歌っている。
花音もうずうずと歌いたそうにしているが、それも無理はない。流してる曲は花音の好きなアニメの主題歌だからだ。
若葉も最近では虎徹の影響もあってアニメを見ているらしく、徐々にオタク文化に触れていた。
花音も乗ろうかどうか悩んでいる間に曲は止まる。
そして手元に残ったものが自分がもらうプレゼントだ。
「じゃあまずは颯太から!」
「何故俺?」
「私のだから!」
若葉は自信たっぷりにそう言った。
最初に開けるものは基準となりがちだ。
仮に若葉のプレゼントがいいものであれば、その後に開封する俺たちのプレゼントにプレッシャーを与えることになる。
決してネタには走っていないが、俺は緊張感に苛まれていた。
そしてそれは花音も同じようで、生唾を飲み込んでいる。
俺は意を決し、プレゼントを開封する。
中からは箱が出てくる。その中に入っているものは……、
「これは……水筒? じゃないな。タンブラーか?」
「惜しい! 保温のマグカップだよ」
言われてからパッケージをよく見ると、確かに保温マグカップとでかでかと書いてあった。
「勉強の時とかってどうしても温かいもの飲むし、普通に部屋でゴロゴロする時にもいいかなって」
「ああ、確かに。勉強にしてもゲームにしてもマンガにしても、集中してるうちに飲み物冷めちゃうからなぁ……」
受験勉強にかなり役立つもので、それ以外でも使いやすい。
あと一ヶ月を切っている受験に向けて、追い込むためのアイテムにもなるだろう。
いいプレゼントをもらえることができた。
そう思っている。……ただ、逆に俺が選んだものがどうなのかという不安に駆られる。
去年はたまたまいいものを思いつくことができたが、クリスマスや誕生日を重ねることで無難に選べるものが減っていた。
だからこそ、俺は悩んでいたのだ。
「じゃあ次は……」
「開けた人が出したプレゼントを持っている人はどうだ?」
「……と言うと?」
「俺が開けたから、次は俺が持ってきたプレゼントを持っている人が開けるっていうこと」
「なるほど! それなら次は……かのんちゃんかな?」
「えっ、あ、うん……」
花音は戸惑った声色で返事をしながら、俺に視線を向けてきた。
最初や最後はどうしても注目がいく。
そのため俺は二番目という安パイを取って逃げていた。
そのことに気が付いた花音が、俺を見る目は怖かった。
俺の用意したプレゼントはそこそこ大きいもののため、紙袋にしか入らなかった。
中身が見えないように口の部分を止めてあり、花音はプレゼントを開封する。
「これは……クッション?」
「ああ、触感が良かったからな。枕にもできるし、座っても抱きかかえても使えるかなって思ってさ」
若葉は知らないが、少なくとも花音と虎徹がこういったクッションを持っていないことを知っていた。
そして凪沙が似たようなものを愛用しているため、それを参考にさせてもらったのだ。
「確かに結構触り心地いいかも。ありがとね」
「喜んでもらえたならよかった」
使うかどうか、人を選ぶとは思っていた。
しかし、今までのクリスマスパーティーや誕生日など、四人ともがそれぞれ被らないように選ぼうと思うと選択肢段々となくなっていく。
かなり悩んだ結果、あまりなさそうなものを選んだのだ。
「いいなー」
若葉も欲しそうにしている。持っていなかったのだろう。
誰に当たったとしても、極端なはずれにはならなかったとわかり俺は安心する。
「それじゃあ順番的に、次は俺か」
「そうだねー。どうしたの虎徹。今日は積極的だね?」
「流れ的にそうだからな。それに、本宮の選んだものなら間違いないだろ」
「確かに!」
虎徹は何気なしにそう言ったのだろう。しかし、花音はその言葉に顔を強張らせた。
三番目とそこまでプレッシャーのかかる順番ではないが、期待がかかれば選んだものが気に入ってもらえるのかという不安に駆られてしまう。
花音は息を飲む。
「さて、なんだ。……おっ?」
「なになに?」
「加湿器か」
小型の卓上の加湿器だ。
場所はあまりとらないペットボトルくらいの大きさで、使い勝手はいい。
冬で乾燥しやすいこの時期にピッタリとも言えるものだが、花音は一人だけ悲しみに打ちひしがれていた。
「どしたの?」
「……加湿器って、既視感ない?」
「んー……言われてみるとあるかも?」
「……買ってから気づいたんだけど、去年の颯太くんのプレゼントがそうだったから」
俺が去年のクリスマスパーティーに持ってきたのは加湿器……正確にはアロマディフューザーとしても使えるものだ。花音の家に行くと稼働しているため、俺は密かに嬉しく感じていた。
花音が用意した加湿器は、そんな俺が用意したものよりも機能が豊富なものだ。
それはアロマディフューザーとして使えないため、加湿器としての機能は豊富だということだった。
被らないようにと考えていても、一年間とはいえ四人で交換を繰り返せば選択肢が狭まる。それは俺も考えていたことだ。
花音はその狭まった選択肢から選んだつもりだったが、抜け落ちてしまっていた。
しかし、受け取る虎徹の反応は、悲しみに打ちひしがれている花音とは正反対だった。
「いや、これは普通にありがたいぞ」
「……ホント?」
弱気になっている花音は、虎徹の様子を窺っている。
基本的に虎徹はストレートに発言するため、その言葉は嘘ではなかった。
「ああ。最近若葉が家に来た時に『乾燥する!』って文句言うからな」
「あっ! ちょっと虎徹!」
「それならそれで若葉の部屋でいいのに、勝手に来て文句言うんだからな。そろそろ用意しようか悩んではいたけど」
「……そうなんだ」
花音は静かに俯いており、わがままを暴露された若葉は一人で恥ずかしがっている。
だがちょうど欲しいと思っていたものを渡せたということになった。そのことが嬉しかった花音は俯きながら、必死ににやけ顔を抑えていた。
俺も表情が見えていたわけではないが、それは花音が表情を隠したい時の仕草だった。
「それじゃあ、最後は私の番だね!」
「俺の選んだものだな」
「楽しみー! なんだろ……?」
少し前まではただの幼馴染の関係だったとはいえ、それでも二人はプレゼントを贈り合っていた。
虎徹もこういった場に慣れているはずだ。
若葉は期待でいっぱいとなった目で虎徹の選んだプレゼントを開封する。
「……何これ」
若葉は愕然としていた。
「何って、タオルだけど? 若葉なら部活もあるし、ちょうどよかったな」
全国大会に出場が決まっているバレー部女子に所属する若葉は、年明けまで部活があった。
そのためタオルは使えるには使える。
それでも素直に喜べないのは、そのタオルの柄にあった。
「お肉柄って何なの!?」
「高級そうだろ?」
「高級そうだけど柄的に使えないよ!」
プレゼントとして考えればネタ枠としては間違っていないのかもしれない。
しかし、部活で使うにしても流石に抵抗がある。確実に周りから奇異の目を向けられる。
「そうか……。いらないなら俺が使うよ」
「いらないとは言ってない! 使うけどさ!」
――使うんだ……。
虎徹が手を出して受け取ろうとしているが、若葉は大事そうに抱きかかえていた。
なんだかんだ言いながらも、嬉しかったのだろう。
俺たちのプレゼント交換は賑やかなまま終わっていく。
それから花音へのプレゼントを渡すと、受験を控えている学生とは思えない空気感でこの日は終わっていった。
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