第162話 青木颯太はこれがいい

「かのんちゃん、誕生日おめでとう! あーんど……メリークリスマース!」


 テンションがやけに高い若葉の音頭によって、俺たちは手に持つグラスを上げた。

 ……テンションが高くなっているのは、若葉だけではないが。


 俺と花音も少しテンションが振り切っており、虎徹に関しても若葉に乗っている。


「今日は解放される……」


「明日もだね!」


「ああ。……だが、明後日からは現実に戻るんだ」


「やめて……、やめてよ……」


 若葉は悲しい声を上げており、虎徹も絶望した表情だ。

 クリスマスイブとクリスマスに関しては、こうして集まっている間は勉強をしないと決めてあった。


 今日は正確に言えばクリスマスイブだが、クリスマスパーティーと一日早めの花音の誕生日パーティーを行っている。

 せっかくなら分けたいところではあるが、俺も花音と二人きりで過ごしたく、虎徹と若葉もそれは同様だ。

 そのため、クリスマスイブに四人で集まり、クリスマスはそれぞれ別で過ごすという日程を組んでいた。

 特に若葉は今日も夕方まで部活があったため、夕方から夜にかけてパーティーをおこなった方が都合が良かったという理由もあった。


 学校や勉強をするために集まることはあるが、こうして四人で遊ぶのはずいぶんと久しぶりだ。

 それもあってか若葉のテンションはおかしなことになっており、落ち込んでいると思えば突然ハイテンションで声を上げた。


「どうする? まずはプレゼント交換?」


「気、早くないか?」


「楽しみだしー」


「それはそうだけどさ……」


「お腹空いたから、まずはご飯でも食べたいなぁ」


「かのんちゃんがそう言うならそうしよう!」


 花音の一声で若葉は考えをすぐに変える。

 なんと言うか……、俺が言ってもすんなりは聞いてくれないことから、力の関係が明らかとなった気がした。




 注文してあったピザが届き、俺たちはすぐに食べ始めた。去年も同じ流れだった気がするが、年に数回……何なら一回食べるかどうかのピザは俺たちにとっての精一杯の贅沢だ。


「今年って色々あったよねぇ……」


 ピザを頬張っている若葉がしみじみとつぶやいた。


「どうした若葉。忘年会みたいな流れだぞ?」


「忘年会とかしないから、この機会にしかそんな話できないじゃん? それに虎徹も色々あったと思わない?」


「まあな……」


 今年あった大きなことを挙げだすとキリはないが、大きくは虎徹と若葉、俺と花音が付き合い始めたことだろう。

 雰囲気からして虎徹と若葉が付き合いだしたことは不思議ではなかったが、告白する前日まで俺はまともに花音への好意を自覚していなかったため、去年の今頃……なんなら文化祭まではこうなるなんて思ってもいなかった。


 そして若葉にしても俺にしても、一度振られている。一歩間違えていれば関係は大きく変化していただろう。

 そのことを考えると、今年もこうして四人で一緒に過ごせることがたまらなく嬉しかった。


「特に颯太って、何気に私たちの中心にいるよね」


「そうか? 俺的には若葉が中心だと思ってるけど」


「いやいや、私と虎徹の時もだけど、結構間に入ってくれたりするじゃん?」


「んー、まあ確かに?」


「颯太には感謝してるよ。いてくれなかったら虎徹とどうなっていたかもわからないし」


「……おう」


 率直な感謝をされて、俺は思わずそっぽを向いた。

 純粋な若葉の笑顔がまぶしくて直視できない。


「もちろん虎徹にも、かのんちゃんにも感謝してるよ!」


「若葉ちゃん……」


「かのんちゃん……」


 二人は見つめ合ってから抱き合っている。

 そんな茶番を横目に、俺と虎徹はピザを食べ進めている。


 こんな空気感が、俺は好きだった。

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