第10話 青木颯太は勝てない

「はぁ……」


「ため息ついてないで手を動かす」


「はい……」


 デートに行った翌日。

 俺は喫茶店で勉強をしていた。

 ……美咲先輩と一緒に。


 今日は美咲先輩と会う予定はなく、家でのっびりと勉強をする予定だった。

 しかし、昨日のデートの際に、俺は美咲先輩の家に勉強道具を忘れて行ってしまった。

 正確には、急遽デートに行くことになったため、荷物になるからと置いていった教科書やノート、参考書などを一式置いていってしまったのだ。


 そして今日になって、美咲先輩がわざわざ届けてくれ、そのまま勉強することとなった。


「まさか二日連続で会うことになるとは思わなかったですよ」


「それは私もだよ。まあ、家に置いていくように言ったのは私だから、そこは申し訳ないと思っている。……でも、会いたくなかった?」


「そういうわけではないですけど……」


 会いたかったのは違いないが、複雑な気持ちはあった。


「昨日遊んでリフレッシュはしましたけど、せっかく美咲先輩と会えたなら遊びに出かけたいなって思ってます」


 昨日が楽しかったからこそ、今日もその余韻に浸りたいのだ。

 一人で勉強するならまだしも、美咲先輩と二人でいる状況で勉強をする気が起きなかった。

 ただ、もちろんこのままでは駄目なことはわかっている。


 どうしようか悩んでいると、美咲先輩は思い出したように「あっ!」と声を上げた。


「それならこういうのはどう? ゲームをして、私が勝ったら一ページ進める。颯太くんが勝ったらもう一回ゲームができるっていうルール」


「それってつまり……、俺が勝ち続ければ勉強はしなくていいってことですか?」


「まあ、そういうこと。でもゲームって言っても色々あるし、携帯ゲームの対戦だと普段から慣れている颯太くんが有利になるから、負けた方が対戦するゲームを選べるってことで」


「なるほど……、良いですね」


 ゲームと言われれば、普段からしている俺の方が有利だろう。

 特に美咲先輩はたまにやる程度と聞いており、流行りのゲームは疎かった。


 ただ、一点だけ疑問があった。


「……あれ? そもそも俺も美咲先輩も、今はゲームを持っていませんよね?」


「そうだね」


「それならどうやってゲームをするんですか?」


 乱闘するアクションゲームも、カートのレースゲームもできない。

 家に取りに帰ってもいいが、わざわざそこまでするのもどうかと考えていた。


「携帯があるでしょ?」


「はぁ……」


「無料ゲームで対戦すればいいんだよ」


「えっ……?」


 携帯にあるゲームは、対戦系はそう多くない。

 なくはないが、ゲームをするのはもっぱらゲーム機のため、携帯でできるゲームはあまりしないのだ。

 お互いにルールがわかった上でできるものなんて限られている。

 俺は嫌な予感がしていた。


「ゲームって、もしかして……」


「将棋とかオセロとかチェスとか、色々あるでしょ?」


 美咲先輩は笑顔でそう言った。

 明らかに意図的に作られた笑顔だ。

 つまり……俺が了承するとわかっていて、自分が有利になるように話を進めていた。


 美咲先輩が挙げたような頭を使うテーブルゲームは苦手なのだ。


「じゃあ、やろっか?」


「……はい」


 ここまで来たら引くわけにはいかない。


 結局、全敗とはならなかったものの、ほとんど負けてしまったため勉強時間のが多かった。

 それに、ゲームの間も頭を使うため、帰る頃には俺の頭は焼き切れそうになっていた。

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