第13話 青木颯太はまだ足りない

「うーん……」


 俺の成績を見て、美咲先輩は顔をしかめる。

 俺自身素直に喜べる成績ではなかった。


 去年までの成績を考えると大喜びできるはずだが、大学受験のことを考えると、まだまだ不十分と言える内容だ。

 しかもすでに九月に入っており、今の状態でこの時期というのはどうしても焦ってしまうのだ。


 そもそもの話、美咲先輩の通う大学は、本格的な受験勉強に入る前の花音や虎徹でも難しく、若葉が受かるかどうかというくらいだった。

 今でもやっと三人ならまず受かるだろうという学力だが、今の俺は三人と比べればまだ低い。

 可能性がないわけではないが、恐らく今のままでは合格確率は三割もないだろう。


「一応、苦手分野は潰しているんですけどね……」


「過去の成績と見比べればそれはわかるよ。……でも、一気に伸びなくなったね」


「はい……」


「まあ、焦ることはない……って言っても焦るのはわかってるけど、今まで一気に伸びてきたわけだからどこカで止まるのはあることだよ。今が我慢時っていうところかな」


 今までは基礎問題を詰め込んでいくだけだった。

 基礎の知識は単純なものが多い。極端な話、英単語を一つ覚えるだけでも違うのだ。

 そして空っぽの中に一つの知識を入れていくため、そもそも間違えて覚えていなければ間違えようがないのだ。


 しかし、知識をつけた今では、スペルが少し違うだけでまったく違う意味の単語があることを知ってしまっている。

 例えば『l』なのか『r』なのか、『a』なのか『e』なのかというように、発音でやスペルで覚えていてもふとした時に間違えてしまうことがある。

 英語に限ったことではなく、他の教科でも一文字の違いで大きく意味の変わる言葉もあるため、一気に頭に詰め込んだ俺の頭では処理しきれなくなっていた。


 それに加えて応用問題だ。

 基礎知識を使って解いていく応用問題に対応しきれていない。

 まだ基礎を覚えたてのため、上手く気付けなかったり、引っ掛け問題にも簡単に引っかかってしまう。


 それらの理由で、俺の成績はぴたりと伸び悩んでしまっていた。


「無理はしないでね?」


「……美咲先輩が優しい」


「ちょっと待って、それどういうこと?」


「勉強に関しては厳しい美咲先輩からそんなこと言われるなんて思っていなかったので」


「…私だって心配はするんだよ」


 いつもと様子が明らかに違う。

 それだけ俺のことを心配してくれているのだと思うと嬉しく思っていた。




 ただ、まだまだ合格できる成績ではない。

 それならば合格できるように、もっと勉強時間を増やさなくてはいけないのだ。

 焦っても仕方ないことはわかっている。

 それでも焦らなくてはいけない状況になっているのは明白だった。


 美咲先輩との勉強会の後の夜、俺は机にかじりつき、ひたすらペンを動かしていた。

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