第14話 城ヶ崎美咲は看てみたい

 体が重い。

 朝……というにはやや遅いかもしれないが、土曜日ということもあり十時頃に目が覚めると、俺は上手く頭が働かず、体を起き上がらせることさえ億劫だった。

 寝起きとはいえ、頑張れば起き上がれるわけではなく、頑張っても起き上がるのに一苦労だ。


「熱……はないか」


 頭がボーっとして熱いが、風邪のような体調の悪さではない。

 熱はあっても微熱くらいだろうという、そんな体調の悪さだ。


 しかし、今日は美咲先輩と勉強をする約束をしている。

 約束は昼過ぎだが、それまでに軽く復習をしておきたいところだ。


 そんなやる気も起きない、かつてないほどの倦怠感に襲われている。


「……今日は無理かなぁ」


 申し訳ない気持ちの中、携帯を操作して美咲先輩へと発信する。


『もしもし、颯太くん? どうかした?』


「ああ、あの……」


 声を聞くと少し元気が出た気がする。

 気持ち的には会って勉強をしたいところだが、どうも体が追いついてないのか、携帯が手からするりと抜け落ちた。


「すいません、携帯を落としちゃって」


『それはいいけど……、何かあったの?』


 些細な出来事に美咲先輩は疑問を持ったのか、心配そうな声色に変わる。


『もしかして……体調悪い?』


「……はい」


『疲れが溜まったのかな? 今日家には誰かいるの?』


「親は休日出勤で、凪沙は部活で午後からはいます」


『それなら良かった。何かあったらすぐ行くから連絡してね?』


「わざわざ来てもらうのも悪いですよ」


『颯太くんのためなら行くから遠慮なく。……まあ、とりあえず今日は勉強はなしで、ゆっくり休んでね?』


「ありがとうございます」


 電話を切ると、優しい言葉をかけられたことに気分が高揚する。

 しかし、同時に会えなくなってしまった寂しさにも襲われていた。


「体調悪いと、なんか心細いよな……」


 ベッドに転がりながら誰に見られるわけでもないが、腕で顔を隠した。

 そうしているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。




「……あっつ」


 起きて数秒し、ようやく自分が今まで寝ていたことに気付く。

 そして、寝起きの回らない頭で何で寝ていたのかを思い出す。


 ……そうか、今日は美咲先輩と勉強の約束をしていたけど、体調を崩したんだったな。


 ただ、寝たことでだるさが抜けているようで、いつの間にか体は軽くなっていた。

 起き上がろうとして一つだけ違和感に気が付いた。

 俺にタオルケットがかぶせられていた。

 寝落ちてしまっていたため、もちろん被った記憶はない。


 そこまで考えていて、もう一つだけ違和感が視界にチラチラと映っていたのだ。


「み、美咲先輩……?」


「あぁ、颯太くん。起きたんだ」


 勉強机の前にある椅子に座っていた美咲先輩は、読んでいた本をパタンと閉じ、俺の方に向き直った。


「あれ? 何でここに!? 凪沙が鍵をかけ忘れてた……とかですか?」


「ううん。その凪沙ちゃんに入れてもらったんだよ。もうお昼は過ぎてるよ」


「な、なるほど……」


 どうやら話を聞くと、凪沙が部活を終わったあたりで連絡し、待ち合わせをしてうちに来たということだった。

 凪沙の連絡先を知っていたことは驚いたが、そもそも夏海ちゃん経由で知れるため、冷静になって考えれば驚くようなことではなかった。


 そして凪沙はと言うと……、


「凪沙ちゃんは出かけて行ったよ」


「非情な妹だ……」


 別に看病してほしいと思っているわけではないが、心配されないのは少し寂しい。

 そう思っていたが、実際はどうやら違うようだった。


「……凪沙ちゃん、私に気を遣って二人きりにしてくれたみたい」


「えっ?」


「何かあったらいつでも呼んでって言われてるから、多分出かけたにしてもすぐに戻ってこれるように考えているんだと思うよ。ただ、今日は私と颯太くんが約束していたのは知ってたみたいだから、少しでも一緒にいられるようにって……」


「凪沙……」


 できた妹過ぎて怖いくらいだ。

 心配した上で、ここまで気を遣ってくれている凪沙に、俺は頭が上がる気がしなかった。


「まあ、今日は私が看病するから、何かあったら言ってね?」


「は、はい……」


 美咲先輩に看病されるという事実を実感した俺はやけに胸の鼓動が高鳴っていた。

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