第15話 城ヶ崎美咲は息抜きたい

「あっ……!」


「ちょっ……! 声出しすぎですよ!」


「だって、つい出ちゃうから……。痛っ!」


「痛くないです。大丈夫です。……って、当たってますよ!」


「しょうがないじゃん! 勝手に動いちゃうから……」


「確かについやっちゃいますけど……。でも、流石にそれは……って、ちょっ!」


「ごめんね? すぐに退くから」


「早くしてください! ……あぁ! 抜かれた!」


「大丈夫! 颯太くんなら抜き返せるよ!」


「まあ、アイテム使ったら余裕ですけど……」


「あっ、一位だね!」


「美咲先輩は五位……。何とも言えない……」


「だって初めてなんだもん。しょうがないじゃん」


「まあ、そうですね……」


 俺は午前中は寝込んでいたが、昼ご飯として美咲先輩お手製のうどんを食べるとだいぶ体調も回復していた。

 ただ、疲れが溜まっているということもあって、今日は勉強を休みにしていた。

 そして息抜きのために、こうして俺たちはレースゲームをしているのだ。


「颯太くん強いから、私じゃ相手にならないよね……」


「いや、でも初めてにしては上手いと思いますよ? それに、奇想天外な行動をするので、読めなくて手こずります」


「それ、私が下手って言ってるのと同じだからね?」


 初心者の美咲先輩は、慣れている人とは違ってアイテムのタイミングの使いどころが読めない。

 そのため、何度も甲羅で狙撃され、逆にコンピューターを狙撃することもあって順位はめちゃくちゃなことになっていた。


「それじゃあ、ハンデでもつけてやりますか?」


「うーん……、それって、私が簡単に勝っちゃわない?」


「そうでもないですよ。……まあ、物は試しで一回やってみましょうか」


 こうして、俺は一位が二周目に突入してからスタートするというハンデをつけ、ゲームを始めた。

 すると……、


「ねえ、颯太くん! 私一位だよ!」


「そうですね。……まあ、まだ一周目なので油断はできないですけど」


「これなら私も勝てちゃうなぁ。颯太くん、負けても泣かないでね?」


「泣きませんよ……っと、スタートだ」


 子供のように無邪気に喜んでいる美咲先輩はいつものようなクールな雰囲気とまた違い、年相応のといった感じだ。


 美咲先輩に気を取られすぎないようにしながら、俺はカートを操作する。


「あれ、これ何? 空飛ぶ甲羅? ……あっ! 攻撃された!」


「ああ、それは一位を狙う甲羅ですね」


「そんなのあるの? 卑怯じゃない?」


「逆に一位が独走しすぎたら面白みもないので、これも醍醐味ってやつです」


「そうなんだ。……って、今度は後ろから!?」


「それ、前のレースでも当たってた……と言うか、美咲先輩俺に当ててましたよ? 追尾する甲羅です」


「むむむ……、赤いだと確実に当てれるのか……」


 こうして終始はしゃぎながらゲームをしている。

 最終的に一位の差をものともせず、俺が最後にコンピューターを抜き去ってゴールした。

 苦勝ではあるが、一番気持ちの良い勝ち方で終えた。


「何で一周差もあるのに勝てないの!?」


「順位が低いといいアイテムが出るんですよ。だから追いつきやすい……って言っても、もちろん限度はありますけどね」


「そんなシステムが……」


 美咲先輩は唖然としている。

 ただ、こうやってゲームをしていると、美咲先輩の器用さが際立つのも事実だ。

 今こそ俺が逆転勝ちしたが、美咲先輩も三位と健闘している。

 最初は下位でボロボロだったが、何回もやることで次第に慣れてきているのだ。


「もう一回やろ?」


 最終的には美咲先輩がヒートアップし、美咲先輩の気が済むまでゲームは続いていた。

 しかし、勉強漬けだった俺にとっては、それもいい息抜きになっていた。

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