第12話 青木颯太は知らない

「ところで、美咲先輩と夏海ちゃんって似てないですよね」


 買い物が一段落終わり、フードコートでデザートにアイスを食べながら休憩をしている中、俺は前々から疑問に思っていたことを口にした。


 美咲先輩はツリ目で、性格も常に気を張っているようなしっかり者だ。

 しかし夏海ちゃんはタレ目で、マイペースな性格をしている。

 本質的には真面目でしっかりとしている点は二人とも似ているが、普段の様子では正反対と言える二人だった。

 それに、髪色も美咲先輩は黒で、夏海ちゃんはやや濃いめで茶色も入っているが黄金に輝いていた。

 ただ、夏海ちゃんも不良でもギャルでもなく、かといってファッションで染めているような不自然さもないのだ。


「あれ、颯太くんって知らなかったっけ?」


「何がですか?」


「私たち、クオーターだよ?」


「えっ?」


 突然のことに、俺は思わず声を上げた。


「クオーターってあれですよね? 親がハーフで……」


「そうそう、祖父母のどっちかが外国人ってやつ。うちの場合は母方のおじいちゃんがイギリス人で、お母さんがハーフになるね」


「そうだったのか……」


 だからと言って驚く以外何もなかった。


 二人とも顔は日本人顔だが、よく見るとイギリスの血が入っているからなのか目鼻立ちは確かに日本人離れしているようにも見える。

 そして特に血を引き継いだのが夏海ちゃんだったということだろう。


 夏海ちゃんを不良ギャルだと思っていた時期も正直言うとあった。

 しかし、ただ地毛なだけだったのだ。


「私たちにとっては当たり前すぎたから言わなかったのかも……。あ、いや、言ったことあるよ?」


「えっ?」


「中学生の時、英語が苦手だって颯太くんが言ってて、私にどうやったら上手くなるのか聞いてきたんだよ。それでおじちゃんがイギリス人だから昔から教えてもらってるって言ったはず。おじいちゃんも二本に住んでるから、普段の会話は日本語だけどね」


「あれ、言われてみると聞いたことがある気がする……」


 当時は美咲先輩でもふざける時があるんだなというくらいにしか思っていなかった。

 適当に聞き流していたからスルーしてしまっていたのだろう。


「……でも、こういったらなんだけど夏海ちゃんは地毛が金髪で困ったことない? 頭髪服装検査とか、引っかかりそうだし」


「毎回引っかかってますよ~。高校生になってからは特に言われませんけど、中学生の時は先生に目を付けられました~。おじいちゃんがイギリス人だって話したら大抵の先生はわかってくれるんですけど、それでも文句言ってくる先生もいて~」


「まあ、やたらと例外を嫌う先生はいたよね……」


「そうなんですよ~。不良扱いされたんで、テストで毎回一位を取るようにしたら、文句言われなくなりました~」


「なるほど……、少なくとも不良ではないから口出ししづらくなるってことか。……ってあれ?」


「どうかしましたか~?」


「なんかこの話聞いたことがあるような……」


 だいぶ前に聞いたことがある気がする。

 一年くらい前……ではない。半年くらいだったか?

 確かあれは冬で年明け……受験シーズンだった気がする。

 誰から聞いたのか……それは凪沙だ。


「凪沙の同級生で、金髪の人がいて、勉強できるから先生に文句を言われなくなったとか……。それで高校も同じ学校で、中学はあんまり話したことなかったけど高校に入ってから仲良くなったって言ってたな……」


「私ですね~」


 やっぱりか。

 聞いた時は『そんな人もいるんだな』くらいに思っており、 少し面白いエピソードではあったが、気が付くといつの間にか忘れてしまっていた。


 ただ、なんとなく思い出した時には気になるような……かと言ってめちゃくちゃ気になっているわけではないという相反した話だった。

 答えがわかったことにより、引っかかった小骨が取れたような気分になっていた。

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