第4話 城ヶ崎美咲は好きになる

 複雑な気持ちは変わらない。

 それでも少しずつ前のように話せるようになっていた。


 ただ、気付くと夏休みに入ってしまう。

 夏休みになれば、会う機会はグッと少なくなってしまった。

 それもそのはず、今までのように放課後とは違って多くの時間を部活に使えるのだ。

 午前と午後で割り当てられることがあれば、他校に練習試合に行くことだってあった。

 颯太くんと会う機会が減っていて私は寂しく思ってしまった。


 もしかして、本当に颯太くんに恋をしている……?


 そう考えてみるが、私はすぐに自分で否定した。

 認めたくなかったのかもしれないけど、そんなことを考えている時点で、完全に颯太くんのことを好きになっていたことはわかっていた。


「……ってあれは?」


 部活が休みの日、私はスポーツ用品店に出かけていた。

 サポーターが痛んできたため、新しいものを買おうと考えたのだ。


 そんな時に、颯太くんを見かけてしまった。

 ……しかし、女の子を連れている。


「――だからこれは――で――だし」


「へー、じゃあ――どう?」


 微妙に聞こえるのか聞こえないかという距離感だ。

 バレー用品のコーナーと、バスケ用品のコーナーは近いため視認することはできるが、声は一部しか聞き取れない。

 ただ、バスケのシューズを見に来ているのだろう。

 しかし、それにしては異様に距離感が近い気がする。


 ダメだということはわかっているけど、私はバレー用品のコーナーから二人の様子を覗いていた。


「――すきっ!」


 女の子は突然そう言うと、颯太くんに抱き着いた。

 私は思わず反応してしまい、近くの棚にぶつかってしまう。

 すると、棚に置いてあったものが落ちてしまい、私は慌てて拾って棚に戻した。


「……美咲先輩? 何しているんですか?」


「あっ、えっと……、奇遇だね?」


「奇遇ですね」


 この時の私は焦りすぎていたのだろう。

 まったくと言っていいほど頭が回っていなかった。


「別に颯太くんをつけていたわけじゃないからね?」


「それはそうですけど……、逆にそんなことを言う方が怪しくないですか?」


「はっ……! いや、ただ女の子と一緒だなと思っていただけで……」


 次から次へと余計なことを言ってしまう。

 言ってから少し考えると、普通にバレー用品を買いに来ただけと言えばよかったのだ。

 それ以外の余計な言葉はいらなかった。

 言ったとしても、女の子と歩いていたから気を回して声をかけないようにしていたくらいでよかったかもしれない。


 ただ、実際に二人が一緒にいるところを見て、私は思っていた以上に悲しくなった。

 この悲しくなったという感情は、多分嫉妬というやつだろう。

 今になって、ようやく私は颯太くんのことが好きだと自覚した。

 ……もう遅いのに。


 そう思っていたが、颯太くんは思いもよらぬことを言い出した。


「気を遣ってもらわなくても、この子は妹ですよ? まあ、話しかけづらいとは思いますけど」


「えっ……?」


「始めまして! 青木凪沙、小学五年生です!」


 ……小学生?

 ……しかも妹?

 確かに身長は低めだが、しっかりしているようにも見える。

 中学一年生でも小柄な子ならいるんじゃないかというくらいの身長だ。


「あれ、でもさっき好きって……」


「ああ、バッシュのお金出してやるって言った時にそう言ってましたね。……まったく、現金なやつですよ」


「てへっ」


「ば、バッシュ……?」


 まさか、ただの兄妹のじゃれ合っていただけだった。

 私の不安は杞憂に終わったということだ。


 安心するとともに、何故か怒りがこみあげてくる。

 颯太くんが悪いわけではないとわかっていたが、無性に八つ当たりをしたくなったのだ。


「そういうことね。じゃあ、私は買うもの買って、帰るとするよ」


「は、はあ……。また学校で」


 私はちょうど棚に戻していたものをそのまま持ってレジに向かう。

 商品を購入して家に帰り……ベッドにうずくまって悶えていた。


「間違えたー!」


 勘違いしたのも恥ずかしい。

 そして……サポーターを買うはずが、適当に持っていたものを買ったため、テーピングを買ってしまっていた。

 使うけど、ストックはたくさんあるのだ。


 今日はもう一度出かける気にもなれず、私はまた今度サポーターを買いに行こうと思いながら、恥ずかしさのあまり一日枕に顔を埋めていた。

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