第5話 城ヶ崎美咲は待ち続ける

 生意気で素直じゃない後輩。

 どこかスレているけど大人な考えを持って、決しておごらない。

 そんな颯太くんがいたから、私は昔よりも大人になれたと思う。


 そして……颯太くんの前では私も素直でいられるから、颯太くんのことが好きなのだ。




 好きだと言った。

 颯太くんからは反応がない。

 私は手が震え、颯太くんの口から発せられる言葉に怯えていた。


 しかし、まだ結果はわからない。


「……意外でした」


「意外……かな?」


「はい。美咲先輩はもっと大人な人が好みだと思っていたので」


 私が『そんなことはない』と返しても、颯太くんからも『そんなことはない』と返ってくるだろう。

 私は口をつぐみ、思っていたこととは違う言葉を発する。


「颯太くんといると落ち着くんだ。……私はね、大人っぽいって言われるけど、ただの十八歳なんだ。まだ子供なんだよ」


 大人っぽいとみられる自覚も自負もある。

 それでも一枚皮を剥げば、ただの子供なのだ。

 恋に恋い焦がれ、好きな人と付き合いたいと思う、ただの女子高生だ。……もうすぐ大学生だけど。


「私と一緒にいてくれないかな? 私は今日で卒業しちゃう。友達として会えるけど、会い辛くはなる。……離れたくないんだ」


 そう言って私は顔を伏せていた。

 あとは颯太くんからの返事を待つだけだった。




 美咲先輩から告白された。

 今日一日の行動でなんとなくそんな予感はしていたが、昨日まではこんなことになるなんて思いもしなかった。


 ……だから、正直戸惑ってもいた。

 計画していたこととは真逆のことが起こっているのだから。


「……美咲先輩は素敵な人だと思っています」


「……っ、ありがとう」


 そう言って、美咲先輩はあからさまに落ち込んだ顔をする。

 褒めたつもりだったが、気に食わなかったのだろうか。


「どうかしましたか?」


「いや、なんと言うか……、完全に振られる前の口上だなと思ってね。……あはは」


 美咲先輩は力なく空笑いをする。

 俺は自分の発言を思い出してみると、確かに流れ的に振る流れになっている。


「……ちっ、違います! 素直にそう思っただけで、深い意味はありません!」


「そ、そうなんだ……」


 気まずくなってしまい、お互いに黙り込む。

 沈黙が流れる。

 完全にタイミングを失ってしまった。


「……そ、それで、答えはもらえるのかな?」


「えっと……」


「振るつもりはなかったなら、……期待してもいいんだよね?」


 美咲先輩は待っている。

 返事はわかっていても、俺の答えを待っていてくれた。

 そもそも、俺がちゃんと返せばよかったものを、無駄に引き延ばしてしまっているだけだ。


 覚悟を決めるしかない。


「俺は……美咲先輩のことが好きです」


「そ、颯太くん……」


「実は、美咲先輩から言われなかったら、俺の方から言おうと思っていたんです」


「……え?」


「俺も離れたくないです。一年間はどうしても離れてしまいますけど、会える時はいつでも会いたいです。それに、来年はまた同じ学校に通いたい」


「それって……」


「俺も美咲先輩と大学を目指します。……だからこれからも一緒にいてください!」


「……っはいっ!」

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