第3話 城ヶ崎美咲は気付いている
私は今まで恋がわからなかった。
周りの同級生……どころか年下はもちろん、年上も子供っぽい。
成人している人なんかはそもそも恋愛対象ではないため、憧れることはあっても好きになることはなかった。
でもなんだろう……颯太くんを見ていると、他の人とはまた違った感情がある。
友達とは少し違う。
嫌いだと言いたいけど、何故か憎み切れない。
何故か話したくなる。
そんな複雑な感情を抱いていた。
「はぁ……」
嫌いだと思いながらも話したい。
しかし、最近は何故か颯太くんに声をかけるのを憚られていた。
颯太くんを前にすると、声をかけるのを戸惑ってしまうのだ。
……何でだろう。
「どうしたんですか?」
「ひゃっ! そ、颯太くん!?」
「そうですけど……。ため息をついてるのが見えたので、何かあったのかと思って声をかけたんですけど」
「そ、そうなんだ……」
「悩みとかあれば聞きますよ。聞くだけですけど」
……まったく。
颯太くんのせいで悩んでいるというのに、気楽なものだ。
私が言わなければ本人が気づくはずなんてないけど。
それに颯太くんのことで悩んでいるのに、颯太くん本人に話せるはずもない。
ただ、少しくらいならいいだろうと、私はぼかしながら話す。
「……これは友達の話なんだけど」
「はあ……」
こう言っておけば、私の話だとは思わないだろう。
颯太くんは不思議そうな顔をしているため、多分何でいきなり友達の話をしたのか戸惑っているのかもしれない。
「まあ、ちょっと真剣に相談に乗っているから、私も悩んでるんだよ」
「そうなんですね」
「……それで、ある特定の人に話しかけるのを躊躇するってことらしいんだ」
「んんっ? それはどういう理由でですか?」
「わからないらしい。……ただ、話そうと思っていても、目の前にするとどうやって話しかければいいのかわからないと聞いている」
「嫌いとかではなく?」
「嫌いらしいけど、話したいみたいだね」
「それは……意味が分かりませんね」
……そうだ。私自身意味がわからないから悩んでいるのだ。
しかし、颯太くんは答えに近づくように、一つの可能性を提示する。
「……それって実は好きとかはないんですか?」
「えっ?」
「嫌いっていうのはよくわからないですけど、仮にそれが素直になれないだけだと仮定しますね。それなら好きで素直になれずに緊張しているってことになりません?」
「そうなのか……?」
「いや、俺はわかりませんけど」
私は颯太くんのことが好きだったのか……?
いや、そんなことあるはずない!
「いくら素直になれなくても、好きなら嫌いなんて思わないから! それは違う!」
「でも、それって本人次第じゃないですか?」
「だから、私がそう言っているじゃないか!」
そう言ってから、私は失言してしまったことに気が付いた。
「……まるで美咲先輩の話みたいですね?」
「まさか? 本人から聞いた
「そうなんですね」
颯太くんは苦笑いをしながらそう言った。
もしかして……、気付かれている?
いやいや、誤魔化し……もとい隠せているはずだ。
まさか颯太くんが私の話なんて気づいているはずもない。
聞いた話によると、颯太くんは相当学力が低いみたいだ。
私の完璧な話術に気付けているわけがないのだ!
……でもそうか、『好き』なのか。
可能性は低いけど、可能性の一つとして検討はしていいのかもしれない。
私が颯太くんのことを好きになるわけない。
年下で子供っぽくて、ひねくれて生意気な颯太くんのことを、好きになんてなるはずがないのだ。
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