第2話 城ヶ崎美咲は気付かない

 颯太くんとのファーストコンタクトは、お互いにあまりいい印象は抱かなかったと思う。

 少なくとも私は、颯太くんのことを『食えないやつ』だと思っていた。


 この時は、まさかこの人を好きになるなんて思ってもいなかった。




「……ども」


「ああ、おはよう」


 同じ体育館で部活があれば、朝練習の時に会うことはある。

 週に一度だけ前面を使えるが、男女のバスケ部とバレー部がそれぞれ使うため、大体は体育館を半々にして部活をしている。

 男子バスケ部と女子バレー部が反面ずつというのも珍しくない。


 それに、お互い練習に取り組む姿勢は、理由や目的は違えど方向性は一緒のため、朝早く来ることは変わらずに話すこともたびたびあった。


「今日は私の方が早かったね」


「そうですね。別に張り合ってませんけど」


「むっ……」


 何故か青木くんには対抗心を燃やしてしまう。

 大人びていると周りから言われている私だが、彼を前にするとどうしてもいつものように振舞えない。

 ……こんなの、まるでわがままな子供みたいじゃないか。


「ところで城ケ崎先輩」


「……なに?」


「もうすぐ期末テストじゃないですか? 先輩はどうやって勉強しているんですか?」


「どうやってって……、普段から授業を聞いて家に帰ってから予習と復習をしていれば、テストなんて大したことはないよ? 中学校のテストだし、テスト範囲内の教科書を丸暗記するだけでも高得点は狙えるから、確実に点を取るために仕上げとしてやっているよ」


「あ、そうですか……」


 青木くんは自分から聞いてきたにも関わらず、あまり興味なさそうに返事をする。

 ……いや、これは興味がないと言うよりも、悟っていると言うべきか。


「もしかして、勉強はあんまり得意じゃない感じかな?」


「ぐっ……、できないわけじゃないですよ? 中間でも上位四分の一には入ってましたから」


 勉強は好きじゃないらしい。

 ただ、地頭はいいのか、そこそこの点を取っているようだ。

 ……もっとも、私は中学生になってから一位以外取ったことはないけど。


「勉強が不安なら教えてあげようか?」


「いいです。……って何ですかその顔は」


「いや? 青木くんも弱気になることもあるんだなと」


「別に弱気になんかなっていませんよ」


「どうだか? 不安だから聞いたんじゃないの?」


「気のせいです」


 素直ではないらしい。


 そして、好印象ではなくちょっと面倒な後輩に思っていたけど、何故か私も青木くんには構いたくなってしまう。

 ……むしろ構ってほしいのかもしれない。


 苦手だけど避けようとは思わない。

 むしろ話したいとまで思うけど、仮に誰かに『青木くんが好きか嫌いか』と聞かれたら、迷わず『嫌い』と答えるだろう。

 それなのに、もっと話したいのだ。


 訳が分からない。


 自分でも理解できていない不思議な感情を抱きつつ、私は青木くん……颯太くんとたびたび話すようになっていた。

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