IFルート 春風双葉編
第1話 春風双葉は理解らない
私はいつから先輩の事が好きだっただろうか。
多分その答えはわからない。
自覚したのは最近だけど、ずっと前から意識しちゃってたのだから。
気付いていたけど、知らないフリをしていた。
今まで頑なに認めようとはしなかった。
それは今の『先輩』と『後輩』の関係が壊れちゃうから。
それだけは嫌だった。
でも、その想いをせき止めていたダムは決壊し、想いは溢れてくる……。
「先輩……。好きです。付き合ってください」
全ての苦労が水の泡となって消える音がした。
だって、中学生の頃から自分の中で誤魔化していた想いをついに口に出してしまったのだから。
無理だと思っていたけど、今伝えないと一生後悔する気がしていたから、私は決意したのだ。
ただ、今は返事を待つしかなかった。
「……俺も双葉のことが好きだよ」
「へっ……?」
「告白しておいてなんだよ……。俺だって恥ずかしいんだ」
「で、でも……」
私は『先輩』と花音先輩はいい感じなのだと思っていた。
付き合っていないことは知っていたけど、いずれは……そう思っていた。
それなのに、この先輩は何を言っているんだ!?
「ちょっ……ちょっと待ってください! 先輩って花音先輩のことが好きなんじゃないんですか!?」
「双葉もそう言うのか……」
「みんなにも言われたんですね……」
「まあな……。確かに仲は良いと思うけど、お互いに恋愛感情がないから成り立ってる関係なんだ。付き合うとか、そんなことは考えてないよ」
自分の考えが見当違いで悔しい反面、ホッとしている自分もいる。
……ってあれ?
さっきなんて返事をされたんだっけ?
確か……。
「せ、先輩も私のこと好きなんですか!?」
「さっきそう言っただろ? ……俺だって言うか悩んでたけど、告白されたなら逃げるわけにはいかないしな」
嬉しい。
私は飛び跳ねたい気持ちを抑えて、一呼吸置いた。
そして冷静になった自分を確認して、先輩に尋ねる。
「先輩って、なんで私のこと好きになってくれたんですか?」
「そ、それは……」
先輩は戸惑いながら顔を真っ赤にしている。
花音先輩がからかいたくなる理由がよくわかった。
反応が可愛くて……つい意地悪したくなっちゃうのだ。
先輩は咳払いをしながら、言いづらそうに答える。
「双葉の芯のあるところって言うのかな、一生懸命なところが好きなんだ。特にバスケには真面目で……でもたまに頼ってくれるところとか。それに、俺のことを慕ってくれるのは素直に嬉しいんだ」
そっぽを向き、先輩は「まあ、そんな感じだ」と言う。
今ならスリーポイントシュートをどれだけでも決められそうなほど……むしろ、ダンクシュートができるのではないかと錯覚するくらい、私の気分は高揚していた。
「そう言う双葉こそどうなんだよ?」
「私ですか……優しいところですかね?」
「優しいって、特に褒めるところがない時に使うことばじゃないか?」
「先輩、卑屈すぎますよ。……それに、先輩の場合は本当にそれが理由なので」
挙げればキリがない。
それでも私は特に印象に残ったところを羅列する。
「いきなりバスケを教えて欲しいって言う後輩に親身になってくれるところとかですね。そんな後輩がバスケ用品買いたいっていうわがままにも付き合ってくれます。ちょっとできるようになったら褒めてくれるし、なかなか上手くいかなくても何度も丁寧に教えてくれます」
「そ、そうか……」
「それに、バスケを辞めた後も後輩の練習に付き合ってくれるところも好きです。息抜きにデートにも行ってくれるし、あとは……」
「わ、わかったから! 十分伝わったよ!」
「むぅ……。まだまだいっぱいあるのに……」
一度気持ちを伝えてしまえば、こんなものなのだろうか。
私の先輩に対する想いは洪水して、街を一つ飲み込んでもおかしくないくらいは溢れていた。
「とりあえず、これからよろしくってことで……よかったか?」
「そうですね。よろしくお願いします……彼氏さん!」
「は、恥ずい!」
「言いづらいので、呼び方は変えませんよ。なんか、嬉しくなっちゃったので」
「お、おう……」
多分、今の私たちの顔は、夕日よりも真っ赤だっただろう。
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