第59話 かのんちゃんは行ってみたい!
「せんぱーい!」
放課後、帰ろうと廊下を歩く俺に、涙目になりながら双葉が駆け寄ってくる。
おおよそ予想はついたため、俺は先に切り出した。
「お疲れ様。双葉は頑張ったよ」
労いの言葉をかけ、頭を撫でようとする……が、凪沙曰くイチャついているようにしか見えないとのことなので自重する。
俺が応援しに行った大会。翌日の三回戦で双葉たち女子バスケ部は敗退した。二回戦で活躍しすぎたこともあって徹底的に対策され、それを押し切ることができずに負けたのだ。
ただ、全国ベスト16と上々な成績。
それでも満足できない双葉。悔しさが落ち着いた後に連絡をくれたが、冬休みの間は予定が合わずに会うことができなかったのだ。
冬休み明けの初日はお互いに忙しく、ようやく顔を合わせられたのが今日だった。
双葉は手をブンブンと振りながら、悔しさを爆発させている。
「今日部活休みなので、練習付き合ってください!」
「……その向上心は買うけど、大会もあってその練習もキツかっただろうし、身体休めなよ」
「そんなこと言うならデートしてください!」
何故そうなったのかわからない。練習をしない代わりにデートというのは関連性がなさすぎる。
「なんでだよ。夕方は空いてるけどバイトあるしなぁ……」
遊びに行くのなら一番近いところは駅前となる。そこを往復していればほとんど時間はない。それでも双葉は引かなかった。
「デートしてくれないならむしゃくしゃして練習しちゃいそうだなぁ……」
そう言いつつチラチラと見てくる双葉。そう意味での誘いか。
正直、双葉が練習をしようがしまいが知ったことではないが、何故か俺はこの
「……バイトまでな」
「やった!」
押し切られた形で了承する。俺はこの後輩に弱かった。
下駄箱で靴を履き替えようとしていると、後から花音がやってきた。
「あれ、青木くん。先に帰ったんじゃなかったの?」
「あ、うん。ちょっとね」
花音は掃除当番で居残っていた。その間、俺は双葉に捕まっていたのだ。
ちなみに虎徹は放課後すぐにバイトのため、先に帰っていた。
「そっかー。一緒に帰りたいところだけど、今日は駅の方に用事ないからなぁ……」
残念な様子の花音。冬休み前も話したいことがある時や花音が駅前に用事がある時は一緒に帰ることがあった。
逆に俺が花音の方に送っていくことは、遊びに行った帰りにはあるが、放課後は遠慮して断られていた。曰く、『私が気にするから』と言うことらしい。
どちらにしても今日は断るつもりで口を開こうとしていると……、
「せんぱーい、待ちきれなくて来ちゃいました!」
ひょっこりと双葉が顔を出した。
なんとなく微妙な気持ちだ。約束していた女の子に他の女の子と会話しているところを見られるこの状況。まるで浮気現場を見られたような気分だ。
「あれ? 花音先輩じゃないですか。どうしたんですか?」
「双葉ちゃんこそ、青木くんに用事とか?」
俺が思っていたよりも親しげに話す二人。浮気していたわけでもないが、何故か安堵感があった。
「あれ、二人とも仲良かったっけ?」
「うん。クラスマッチの時にちょっとね」
「そうですよー」
どうやら俺の知らないところで仲良くなっていたようだ。
「それで花音先輩。颯太先輩には用っていうか、今から遊ぶ予定なんですよー。おうちデートです」
バイトのことも考慮し、話し合った結果、俺の家で駄弁ることになっていた。
「へー……」
花音はそう言って俺の方にジロっと視線を向ける。その視線は嫉妬などではなく、『女の子連れ込んで何するの?』とでも言いたげな視線だ。
「私も行っていいかな?」
「え?」
突然の提案に俺は驚く。
ただ、俺としては別に構わない。花音は家に来たことがないが、来る理由もなかったため家は知っていても入ったことはない。
双葉の方に視線を向ける。
「私は良いですよー」
あっさりとした返事だった。花音は「やった」と言っている。
てっきり俺と二人がいいのだと考えていたが、自惚れすぎていたのかもしれない。……恥ずかしい。
「双葉がいいなら俺は構わないよ。……って言ってもゲームするくらいだけどな」
虎徹の家とは違い、種類も豊富ではない。
それでもパーティーゲームはあるため、遊ぶ分には困らないだろう。
俺たちは今までにない組み合わせで帰宅することとなった。
「ただいまー」
俺が帰宅すると、それに続いて二人は遠慮がちに「おじゃまします」と続いた。
その声に反応するようにリビングの扉が開く。
「おにい、おかえりー……って双葉ちゃん! ……と?」
「初めまして。颯太くんとはクラスメイトの本宮花音と言います」
くつろいでいたのかアイスを片手にラフな格好で出てきた凪沙に、いい笑顔で挨拶をする花音。最近少しだけわかるようになってきたのだが、この顔は本心からの笑顔だ。
そんな花音の挨拶に、凪沙も双葉も「颯太くん!?」と反応している。
「ええと……、妹さんも『青木さん』だから名前の方がわかりやすいかなって」
「あぁ、そういうことですか。……私は妹の青木凪沙です」
ペコリとお辞儀をする凪沙。
「それで、おにい。女の子二人も侍らせてどうしたの?」
「侍らせてって……、流れで遊ぶことになったから。俺バイトあるし、外じゃ時間ないから家でってことで」
凪沙は怪しんでいるのか、「ふーん……」とジト目で見てくる。
「それで本宮さんは、おにいの彼女なんですか?」
「花音でいいよ。……そういう関係じゃないかな」
知らない女の子を連れてきたら彼女というのは短絡的過ぎないだろうか。
確かに俺は女友達が少ない上に、家に上げるような人は限られている。
「ええと、凪沙ちゃん……って呼ばせてもらうね。なんでそう思ったのかな?」
「おにいって顔とか普通ですけど、妹目線で性格は良いと思うので、そろそろ彼女の一人や二人くらい連れてくるかなぁって」
そう言う凪沙は、「女の子二人も連れ込んでますけど」と続ける。俺に似てなくて顔の良い凪沙は何気に俺のことをディスってくるが、周りからは『どことなく似てる』と評価されているのだ。
それに彼女を連れてくるにしても、一人ならまだしも二人も連れてくるはずもない。
「双葉ちゃんの方が彼女とかは思わなかったの?」
「双葉ちゃんが付き合ってるなら、真っ先に私に報告が来そうなので、知らないってことはまだなのかなと」
「まだって言うかないけどな」
俺がそうツッコむと、「これだからおにいは……」と呆れた顔をされた。
「とりあえず、立ち話もなんだから部屋に行こっか」
「そうですねー」
ほとんど花音と凪沙の会話だったため、待ちぼうけを食らっていた双葉はそそくさと靴を脱いだ。
サッサと俺の部屋に向かう双葉と、リビングに戻っていった凪沙。
俺も部屋に向かうため階段を登ろうとすると、花音に裾を掴まれる。
「ん? どうかした?」
「凪沙ちゃん、可愛いね」
「まあ、兄的に凪沙は可愛いよな」
顔や言動……たまに生意気なところもあるが、基本的に兄として慕ってくれているため、可愛いと思うのだ。
しかし、花音の眼は『マジ』だった。
「あんな妹欲しい。いや、双葉ちゃんも可愛いし、妹みたいだし……。なにこれ、妹パラダイス?」
壊れかかっている花音に、「自重しろよ?」と言う。
別に、素を出す……と言うよりも狂っているところを見られて困るのは花音で、俺は何も困らない。凪沙に『
花音に正気を取り戻させ、俺たちも双葉に続き、俺の部屋に入っていった。
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