第61話 かのんちゃんはバレたくない!
「……それじゃあ、気を取り直して、ゲームやりましょう!」
凪沙によってこの場は進行され、タイトル画面が進んでいく。
ゲームはクリスマスパーティーの際にしたものと同じ、ヒゲ親父やキノコや亀などが爆走するレースゲームだ。……四人で対戦するアクションゲームも凪沙は持ってきていたため、後でするかもしれない。
タイトル画面からモードを選択し、レースが始まる。あまりゲームをやり慣れていない双葉のために、
カウントダウンが始まる。その間、「一位取りますよ!」と双葉、「負けないですよ!」と凪沙など、和気あいあいと話しており、俺を含めて和やかな雰囲気だった。
そしてスタートする。
双葉はスタートダッシュをミスってエンスト。俺はタイミングが遅くダッシュを決められない。花音と凪沙の二人は難なくダッシュを決めると、いきなり上位の争いだ。
「がんばれー」
「おにい、なに他人事みたいに言ってるのさ」
「ロケット取りたいから序盤は下位でいいんだよ」
どうせ一位になれないのはわかっている。狙うなら二位か三位だ。
ある程度ゲームに慣れている俺からするとCPUは弱目のため、余程の妨害がなければ上位はいけるだろうと踏んでいる。
一位、二位と花音、凪沙。俺は八位で双葉は十位だ。
「むむむ、先輩速いですね」
「双葉が遅い気がするんだけど……」
双葉はコントローラーではなく、体を右へ左へ動かしている。……それでカートが動くわけではないが。あと、ドリフトが上手くできないため、カーブがあるたびCPUに抜かれつつ下位のままだ。
「LR上手く使えよー」
「そんなこと言っても……あっ!」
後ろから甲羅を当てられた双葉は最下位に転落する。
「ロケット出ないからそろそろ追い上げるかぁ」
一周目を終え、八位付近をキープしていても出ない。やはり最下位の方が出やすいアイテムだ。
そして花音と凪沙はと言うと……。
「えっ、そんなショートカットあるんですか!?」
「うんー。きのこ使ったらいけるよ」
上位争いもデッドヒート……せず、花音がぶっちぎりだ。もう半周差つけられて、なんなら双葉に追いつこうとしている。
そんな時、俺のカートはひっくり返った。
「は?」
「あっ、先輩轢いちゃいましたね」
双葉が俺を追い抜いて五位まで上がっている。しかもさらに順位を上げ、三位までだ。
それができたのは、最下位にいた時点で二つのロケットが出たからだ。
「くっ……心苦しいが……。ごめん、かのんちゃん」
そう言った俺は青色の甲羅を投げる。一位のところまで飛んでいくやつだ。
「んー? 別にいいよ、勝負だし」
そう言った花音。花音の画面ではちょうど甲羅が到着し、直撃した。
……しかし、何事もなかったかのように走っている。
「嘘だろ?」
「普通だよ? タイミング良くきのこ使ったらいける。なくてもいけるけど、私は下手だからたまにしか成功しない」
それでもたまに成功するのが末恐ろしい。
それからというものの、双葉は上位になったことで良いアイテムが出ずに苦戦している。逆に俺は双葉のせいで下位になったこともあり、何度も使えるきのことロケットが出たため再逆転した。
凪沙はと言うと、そうそうにゴールした花音のせいで二位にも関わらず青の甲羅が当たるようになってしまい、五位まで転落する。
その隙を突いて俺は順位を上げ、気付けば二位でゴールした。なんとか最後に一人を抜いた凪沙は四位、双葉は六位だ。
「あー! おにいに負けた!」
「兄より優れた妹はいないのだよ」
「……アッ、ハイ」
有名なセリフに有名なセリフで返してくれた。……と思っておこう。
冷めた目で見られていたのはきっと気のせいだ。まさか俺の妹がスルーしてくるはずもない。いつものことだけど。
「……かのんちゃんは流石だな」
「そうかな? でも勝てたから嬉しいなぁ」
一位を取っておいてこの言葉は普通なら嫌味に感じるものだが、花音からはそう感じない。
そう、花音は上手いのだ。それもオタクだと公言し、暇さえあればゲームをやり込んでいる虎徹とは同等くらいにだ。……もちろん『二人ともやっているゲーム』という前提はあるが。
虎徹だけならまだしも、同等の上手さの花音の二人を相手にしていた冬休み中、俺がゲームで勝ったのは片手で数えられる程しかない。それも運良く二人が潰し合った後の漁夫の利で、だ。
「花音先輩すごかったですねー」
「うますぎてびっくりしました!」
双葉と凪沙の二人も驚いている。どちらかと言えば、このゲームに慣れている凪沙の方が驚きは強い。
「どれだけやり込んでるんですか……?」
言われてから花音はハッとする。本性を隠しているということは、オタクバレしたくないはずだ。
それでも花音は本気を出し、ちょっとやそっとやっただけでは会得できないような技術まで披露した。双葉は理解していないが、俺と凪沙はわかっているのだ。
――どう答えるのか。
花音の答えは意外とあっさりしていた。
「私、こう見えて結構
そう言って花音はアクション対戦ゲームの方を示した。
――上手い。
猫を被り始めて二年弱だろうか、その皮は厚かった。
誰もが一度は……は言い過ぎかもしれないが、このゲームはオタクじゃなくてもしている人も多いゲームだ。花音は『ゲームが』好きという事実を述べながらも、万人ウケするようなゲームを指すことで最小限に被害を収めた。
有名ゲームを複数指してゲームが好きだと言ったため、まさか『ギャルゲーをして二次元の女の子に萌えている』や、『ガチガチの装備を揃えてモンスターを狩りに行っている』なんて思わないだろう。
ただ、俺は知っている。ゲームの難易度を知っている人が見れば顔を引きつらせるほどやり込んでいる、虎徹に匹敵するほどのオタクなのだということを。
ちなみに俺は若干引いた。オタクがどうとかではなく、『引くほど上手い』と褒め言葉的な意味で引いたのだ。
しかしその選択は間違いだ。この場には、誰かと遊ぶ時くらいしかゲームをしない人間がいることを花音はわかっていなかった。
「花音先輩って、ゲームオタクってやつなんですか?」
嫌味のない一言が花音に突き刺さる。
決して理解がないわけではない双葉は、ただ純粋に聞いただけだ。
「ふ、双葉ちゃん……? 何でそうなったのかなぁ……?」
「えっと、上手いので……?」
何故か質問に疑問系で返す双葉。
双葉は生粋の陽キャで、若葉と似たタイプだ。それでいて虎徹という
――いや、実際に花音はオタクだが。
それでも、よくわからないまま双葉は聞いているのだ。
「あれ、こういうの好きな人をオタクって言うんじゃないですか……?」
不安になったのか、双葉は俺に尋ねてくる。
「……まあ、程度によるかな?」
俺だって見る人によってはオタクではない程度だ。ゲームをやり込んでいるだけでオタクと判断するのは難しく、『これが好きなだけ!』という人は特に判断が難しい。
現状、双葉が知り得るだけの情報で花音をオタクか否か判断するのは難しいところだった。
花音の様子を窺うと、何と言えば良いのか悩ましい顔をしている。しかし、決心したのか口を開く。
「あははー……、実は私オタクなんだよねー。昔からこの辺のシリーズが好きでさ」
――これも上手い。
花音はあくまでも『シリーズが好き』と言い、『この辺の』というのは、あくまでもパーティーゲーム類を指している。
それによって『このシリーズのゲーム
……ただ、これらのやり取りは無意味である。
俺は知っていた。双葉がそこまで深読みしていないことに。
ただ何となく聞いてみた双葉と、なんとかオタクバレを最小限に止めようとする花音。
多分、最初に否定したらこの無意味な攻防も終わっていただろう。
冷や汗をかく花音と、キョトンとしている双葉。
特に意味のないやり取りが行われながら、ゲームは進行していった。
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