第4話 綾瀬碧は考える

 俺のせいで碧を怒らせてしまった。

 しかし、食後の休憩の後、しばらく流れるプールやウォータースライダーを回っていると、徐々に碧の機嫌も戻り始めた。

 しばらくするといつも通りの碧に戻り、来た時と同じような楽しい時間を過ごすことができた。


 四人でいる時も楽しいが、碧と二人でいる時はまた違った別の楽しさがある。

 この時間も俺にとってかけがえのない時間だ。

 そう再認識した。




「あー、楽しかったねっ!」


「そうだな」


「もう、髪バサバサ! 帰ったらちゃんとケアしないとなーっ」


 ブールや海の後は髪の毛がどうしてもパサついてしまう。

 そうなっているとわかっていても、変えられない楽しさがあるのだから不思議なものだ。


「なあ、碧」


「ん? どうしたの?」


「その……、改めて、昼はごめん。話聞いてなくて」


「いいよ。……まあ、ショックじゃなかったって言えば嘘になるけどさ、毎回全部の話を聞けるわけじゃないし、そういう時もあるよ」


「……悪い。ありがとう」


 どうやら許してくれるらしい。

 申し訳ないという気持ちは変わらないため、何かお詫びをしたいのだが思いつかない。

 これも、俺たちの関係はまだそこまで深いということだった。

 碧のことを知らないからこそ思いつかないのだろう。


「……ねえ、颯太くん」


「どうした?」


「颯太くんって、かのんちゃんと藤川くんと若葉ちゃん……三人と仲良いよね?」


「ああ……うん」


「去年から知ってはいたけどさ、結構意外だなって思ってたんだ。なんとなく、みんな性格とかバラバラな感じするしっ!」


「あー……、確かにそんなに似てないな」


 相性は良いとも言えるし、悪いとも言える。

 きのことたけのこでも真っ二つに意見が分かれるのだ。

 ただ、ちぐはぐな性格同士が集まっているからこそ、それぞれが補い合っているという見方もできた。


「どういう風に仲良くなったの?」


「えーっと、虎徹とは一年生の頃に席が近くて、お互いに友達がいなかったから自然と話すようになったんだ」


 俺は誰とも話さないわけではなかったが、いつも一緒にいるほど仲の良い友達はいなかった。

 対して虎徹は見た目もあってヤンキー認定され、敬遠されていたのだ。

 話してみると意外と面白いやつで、それ以降二人でいることが多くなり、かけがえのない友人となった。


「それで若葉は虎徹と幼馴染だったから、自然とって感じだな」


 なんでこの二人の仲が良いのかと当時は驚いたが、今では二人が一緒にいないことの方が可笑しいと思うほどだった。

 いつになったら付き合うのだろうかと考えてしまうほど、二人の性格は真反対で相性が良い。


「それで花音は……」


「かのんちゃんは?」


 何と説明しようか。

 詳しいことは言えるはずもなく、俺はぼかして話すことにした。


「秘密を知ってしまって、仲良くなったってところだな」


「秘密って? ……って言えないから秘密なんだよねっ?」


「まあ、流石に本人の許可なく言えることじゃないな」


「そっか……。でも秘密を知ったから仲良くなったって不思議じゃない? まさか颯太くんが脅したとか……」


「酷い疑いだな」


「冗談だよ」


 クスクスと笑う碧の悪戯っぽい笑顔は、正直言って可愛い。

 冗談が冗談だとわかりやすいため、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


「どっちかって言うと、花音が勝手に警戒してたんだ。それで関わることも増えて、仲良くなったってところかな」


「なるほどね」


 大雑把な説明にはなったが、理解はしてくれた様子だ。

 誰しも隠し事はすると、以前虎徹は言っていた。

 しかし、手探りで関係を深めようとしている最中で、話せることは話しておきたいと思っている。


「……ねえ、青木くん」


「どうした? ……ん? 青木くん……?」


 違和感を覚え、俺は一瞬志向が停止する。

 なんとなく嫌な予感がしてしまった。


 碧は真夏だというのに、まるで真冬に薄着で外に繰り出したのではないかと疑うほど、体が震え、声も震えていた。


 そして、嫌な予感は的中した。


「付き合う前提の友達とか、……やめよっか」

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