第3話 綾瀬碧は不服!

「爽快っ!」


 目の前にいる同級生の女の子は水着姿でそう叫ぶ。

 しかも上にラッシュガードを羽織ることなく、完全に無防備だ。


「颯太くんっ! プールだよプール!」


「そ、そうだな」


「どうしたの?」


 可愛い女の子……しかも告白をしてきた碧が無防備な水着姿で目の前にいる。

 意識しない方がどうかしていると思う。

 肌色が多く、俺はどうしても直視できず、目線を逸らしていた。


「むー……」


 しかし、ジロジロと見ない紳士的へたれな俺に、碧は不服そうだった。


「何でこっち見ないの?」


「いや……、ジロジロと見るのは悪いだろ?」


「私、颯太くんに見てほしくて選んだんだから、むしろ見ない方が失礼じゃないかなっ?」


 そんなことを言われると、顔が熱くなる。

 真夏の暑さとはまた違った、こみ上げてくるような暑さだ。


 遠慮がちにゆっくりと碧に視線を向ける。

 碧が選んだと言う水着は、上はフリルのついた白で、下は白が基調となって水色の柄が入っている。

 部活でやや日焼けをしている部分もあり、水着の隙間から垣間見える。

 元々は色白だったのだろうか、ほんのりと焼けているだけだと思っていたが、かなり焼けているようにも見える。

 白と黒のコントラストだ。


「……もっと見て良いよ?」


「遠慮する」


 そんな日焼けにさえもドギマギさせられ、俺はすぐに視線を外した。




 碧と二人で来るのは初めてのプールだが、少し前に虎徹と花音、若葉と四人で来ていた。

 それもあって俺は一通り体験しているのだが、来る人が違えば少しだけ別の景色に見えた。

 ……きっと碧と一緒だからだ。


「午前中だけでもまあまあ回れたねーっ! お腹空いたし、何か食べる?」


「そうだな」


 ちょうど近くには四人で来た時に買い食いをした屋台があり、その近くに席を取り、適当に注文をする。

 食べ歩きしすぎて誰が何を食べたのかわからないが、まさかワンシーズンで同じプール内にある屋台に二度も来るとは思っていなかった。

 懐かしいも何も直近に来たばかりで、驚きも感動もなかったのは少し寂しい。


「食べてちょっと休憩したら、どこか回ろっか? どこがいいかなー」


 四人で来た時は、若葉の提案でウォータースライダーに行って、虎徹が嫌がっていた。

 虎徹があそこまで嫌がるのは珍しく、新鮮な感じがした。


「颯太くん?」


「えっと、なんだっけ?」


「もう、どうしたの? 疲れちゃった?」


「いや、そういうわけじゃないけど、ちょっと考え事してて……」


「そう? ご飯食べてから、どこ回ろうかなって話だけど、どうかな?」


「えっ? ちょっと休憩しない?」


「むー……」


 俺の言動でまたしても碧は不貞腐れる。

 話を聞いていなかった俺が悪いため、何も言えない。


「休憩してからって話してたよ? ……本当にどうしたの?」


「あー、ごめん。食後だし、まずはゆっくりプールで流れるのもいいかなって思うけど、どうかな?」


「……わかった」


 碧を怒らせてしまったらしい。

 普段は積極的に話しかけてくる碧が口を閉ざし、黙々とご飯を食べ進める。


 俺はもう一度「ごめん」と謝ると、碧は「うん」と小さく返事をしたが、機嫌はまだ戻らない様子だ。

 下手なことを言えばさらに怒らせかねないと思い、俺もご飯を食べ終えるまで口を閉ざしていた。

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