第129.5話 藤川虎徹は思い出を重ねる

 毎年、誕生日が来るのは憂鬱だった。

 小さい頃はあまり意識はしていなかったが、中学生になってからは特にだ。


 それは何故か。

 ……若葉が誰かと付き合うかもしれないと思っていたからだ。


 俺は若葉に幸せになってほしいと思っていた。叶うなら自分が幸せにしたいと思っていた。

 ただ、高校生のうちは無理だとも諦めていた。俺の気持ちでは、遊びたい盛りの高校生には重すぎると思っていたから。


 しかし今年はむしろ待ち遠しかった。

 結婚……はまだ早いが、結婚できる年齢になるのだから。

 俺は若葉とたった一日違いで歳を重ねた。




 サプライズではなかったが、楽しい誕生日パーティーが行われた。

 流石に颯太と本宮の二人だけとなれば難しいだろう。今まではサプライズの主導は若葉がしていて、さらに俺と若葉の二人に対してというのは難易度が高い。

 それもあってか俺と若葉の誕生日パーティーは合同だった。普通なら個別がいいと思うところかもしれないが、俺としては嬉しかった。彼女と一緒に祝われているのだから。


「虎徹ー」


 誕生日パーティーが終わってからあとは風呂に入って寝ようかというところで、母さんが声をかけてくる。


「何?」


「もう十八歳だしどうかと思ったけど、私とお父さんからのプレゼント」


 そう言って渡されたものはゲームソフトだ。持っていないもので欲しいものをピンポイントに持ってくるあたり、流石は父さんと母さんだ。……まあ、受験生に渡すものではないが。


「あとこれ、若葉に渡しといて」


「了解」


 若葉用に渡されたプレゼントはちゃんと包装されていたためわからない。

 しかし母さんは「イヤリングだからー」と心を読んだように言った。


「指輪とかネックレスはあんたがプレゼントしな」


「……指輪は早くね?」


「別に薬指じゃなくてもピンキーリングとかあるし。付き合ってるなら薬指でもいいと思うけど?」


「……まあ、おいおい考える」


 母親にアドバイスのようなものをもらうのはやや気恥ずかしい。

 ただ、恋人らしさを求める若葉としてはそういうものを望んでいるかもしれないため、アリなのかもしれない。心の片隅に置いておこう。


 明日も休日で、若葉と二人で出かける予定だ。

 このプレゼントはまた明日にでも渡そう。


 俺は「ありがとう」とお礼を言い、自分の部屋にプレゼントを置いてから風呂に入っていった。




 風呂から上がると携帯に不在着信が入っている。

 そして添えられたメッセージには、若葉から『明日のこと話したいー』と書かれていた。


 俺は折り返し電話をかける。


『あっ、虎徹ー』


「どうした?」


『明日、せっかくだから待ち合わせしたいなって。出かける時っていつもどっちかの家じゃん? デートっぽいことしたいからさ!』


「……ああ、そういうこと」


 なんとなく言いたいことはわかる。

 付き合う前に出かける時は、いつも先に準備ができた方がお互いの家に上がってくつろいで待っている。

 ちゃんとした待ち合わせというのはあまりした記憶がない。


 夏祭りに二人で歩いたのはあるが、ちゃんとしたデートというのは付き合ってから初めてだ。

 こういう時くらいは特別感があってもいいかもしれない。


「それなら十時に駅前とかでいいか?」


『いいよー』


「そういえばうちの親からプレゼント預かったから、また渡す」


『やった! うちも虎徹へのプレゼントあるみたいだから、帰りに寄ってってよ』


「了解」


 長い付き合いということもあって、お互いの両親は考えが似ているのだ。

 毎年もらえるため、密かに楽しみだった。


 そして今さらながら、若葉の声に少し違和感を覚える。

 電話越しに聞こえる声は反響しており、いつもと違う。


 そんなことを考えていると、水音が聞こえた。


「おい若葉。……今何してるんだ?」


『お風呂だけど? ……あ、変な想像した?』


「切るぞ」


『ちょっ……、待ってよー!』


 俺だって男なのだ。

 幼馴染で小さな頃は一緒に入ったことがあるとはいえ、年頃になった今にしかも彼女のお風呂シーンを想像するのは理性に悪い。


「むしろ切らせてくれ。色々やばいから」


『えー。そういうの私にぶつけ――』


 俺は若葉が話している途中に通話を切った。

 これ以上は色々と崩壊してしまう。


 それから何度か電話がかかってくるが、俺は全て無視をした。

 送られてくるメッセージには返しているが、電話に出れば何が起こるかわからない。


 ある程度のやりとりをした後、俺は明日のデートを楽しみにしながら、いつもより早くベッドに入った。




 翌日以降、俺と若葉の胸元には対となる宝石が煌めいていた。

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