第149話 かのんちゃんは通いたい

 中間テスト。

 それは俺にとって苦痛な時間だ。

 ……今までは。


「わかるぞ……。俺は成長したんだ……!」


「……なんか中二病っぽい」


 花音に呆れられた目線を向けられる。

 ただ、勉強がわかるようになるということは気持ちのいいことだ。

 修学旅行が終わってすぐに二学期の中間テストがやってくる。そのため、俺は勉強に明け暮れていた。


 去年のこの時期、俺は赤点だどうだと考えていた。それが今では学年でも中盤の成績に食い込んでいるのだ。

 最初は『それでも中盤か……』と落ち込むことはあったが、受験シーズンで周りが必死に勉強をしている中で順位を上げていることを褒められたため、少しばかりの安心があった。……そう言ったのは担任の後藤のため、やや複雑だが。


「でもさ、花音。俺は嬉しいんだよ」


「何が?」


「花音と仲良くなってから、勉強もちゃんとやらないとって気付かされたからさ」


「私、関係ある?」


「わからないけど、多分関係ある。こうやって一緒に勉強してくれるし、やらないとなって思うから」


「そ、そっか……」


 花音は照れているようで顔を赤くしている。


 すでにテスト期間に入っているため、今日は花音と二人で勉強会を開いていた。

 しかもそれは……、俺の家だった。

 本当なら凪沙もいたはずなのだが、噂というものは怖い。修学旅行が終わって数日のうちに、凪沙は俺と花音が付き合い始めたことを知っていた。

 そして今日も「お邪魔になるから図書館で勉強してきまーす! 六時までは戻らないので、おにいと花音さんは二人きりです!」なんていらない気を回していた。

 ……もちろん何もするつもりもない。するのは勉強だけだ。


「……それにしても、もう一年だね」


「ん?」


「私たちが仲良くなってから。……っていうか、私の本性がバレてから」


「もうそんなに経つのか。……いや。まだ一年しか経ってないって感覚のが強いな」


 学校でも人気者の『かのんちゃん』。そんな『かのんちゃん』は見た目も性格も完璧な美少女ではなく、猫をかぶっている年相応の女の子だった。

 容姿は素のままだが、少なくとも性格は作られた美少女だ。


 しかし、そのことがきっかけで、俺たちの距離は縮まった。

 そして今ではこうして恋人関係にまで発展している。


「不思議だなぁ……」


「そうだねぇ……」


 まだ付き合い始めて一週間のはずだが、意外にも順応は早かった。

 花音は可愛いため、やはり意識してしまうことはある。それは今までもあったことでもあり、今ではこうして友達や親友のように接しながらも、恋人らしく付き合えている……と思っている。


「ねえ、そう言えばさ……」


「何?」


「進路って、結局決まったの?」


「いや、何にも決まってない」


 進路希望調査書は適当に書いて提出しているが、実際のところはまだ決まっていない。

 それが絶賛悩んでいることでもあった。


「そのことでさ、お願いっていうか……わがままがあるんだけど、言っていいかな?」


「内容によりけりだな」


「それもそうだね」


 花音はそう言い、小さく笑う。


「……同じ大学に行きたいな、なんて」


「それくらいなら全然いいよ。もちろん受かったらだけど」


「やった! 頑張ろうね!」


「……頑張ります」


 浮かれているのかもしれない。……俺も花音も。

 進路を恋人が行くからという理由で希望するのはどうなのかと考えてしまう。

 しかし、俺は結局のところ希望の進路なんてものはないのだ。

 それに、実は少しだけ兆しが見えており、その分野は花音と同じ大学でも学べる分野だった。


 俺たちは中間テストのため……そして受験のために勉強を続けていた。

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