第150話 井上若葉は聞いてみたい

「それじゃあジュース持った? ……カンパーイ!」


 元気のいい若葉の音頭によって、俺たちの打ち上げが始まった。


「颯太、今回はどうだ?」


「まあまあだな。多分過去一の出来だけど、最近順調だったからちょっと物足りない」


「言うようになったな」


 中間テストを終えた俺たちは、食べ放題のお好み焼きチェーン店にやって来た。

 そしてテストの結果について話し合っているが、俺は虎徹に言ったようにまずまずだった。

 今までで一番の出来だが、今まで上がり続けた成績の中で少し成長が緩くなったかもしれない。

 それでも成長しているのだから及第点といったところだろう。


 これまでのことを考えるといささか調子に乗っているように思えるが、実際はそんなことはない。

 むしろ勉強した成果を出し切れず、悔しくて仕方なかった。

 ただ悔やんでいてはキリがないため、これからの勉強や次の期末……そして受験に向けて切り替えるために、こうしてリフレッシュしていた。


「虎徹は……って、いつも通りか」


「まあな。志望校的には余裕で受かるから、根を詰めすぎず油断しすぎず、だ」


「そうか。……若葉は?」


「私はそこそこだよ。虎徹と一緒で合格圏内には入ってるけど、気を抜かないようにしないと」


「部活やってるのによくやるよな……」


 多くの三年生が部活を引退している中、若葉はまだ引退していない。

 正確には、まだ出場可能な大会が残っている場合、進学希望の中でも一部の生徒は部活を続けていた。

 その一人が若葉だった。


「でも、自分で続けるって決めたからさ。……言い訳はできないよね」


「それもそうだな」


 部活と受験の両立は大変だ。

 今も俺はバイトには行ってはいるが、週に多くても一、二回だ。勉強の気晴らしという面もある。

 しかし若葉の場合は週に五、六日は部活に費やしており、特に大会も近くなっているため練習は普段よりもハードだ。

 そんな中で両立しているのだから、若葉はすごいと思っている。


「まあまあ、私のことはいいのさ。それよりも……」


「ん? なんだ?」


「かのんちゃんと颯太がどこまで進んだのか気になるなぁ」


「な、なんだよ、突然……」


「だってさ、修学旅行終わってすぐにテスト期間入ったじゃん? なかなかそういう話をする機会もなかったし、それに二人が颯太の家で勉強していたってネタは上がってるんだよ!」


 ……凪沙め、余計なことを言ったな。

 俺の家で花音と勉強していたことを知っているのは凪沙くらいだ。

 今回のテスト勉強は四人ですることもあれば、部活のある若葉抜きで三人でいることもあった。そして虎徹も若葉も予定があった日には俺の家で花音と勉強をしていた。


 そのことをわざわざ二人に言う必要もない……というよりも気恥ずかしかったため、言っていなかった。

 知っているということは、凪沙が直接言った……もしくは誰かに言って広まった意外に考えられなかった。


「……別に何も進んでないよ?」


「……いやいや、恋人が二人きりなんだよ? 何かあるのが普通じゃない?」


「それを言ったら若葉たちの方こそどうなんだよ」


 俺がそうツッコむと、若葉は口をつぐんだ。


「……言っとくけど、何もないからな?」


「そうなのか? 若葉は怪しく黙り込んでるけど」


「何もないから逆に悲しいんだよ! ……でも付き合う前にそういうのはまだダメって言ってたからしょうがないんだけどさ」


 有言実行しており、虎徹は本当に若葉と何もないらしい。

 付き合い始めてからというものの、二人は更に親密になっていた。それでも何もないのだから……、


「それなら、俺たちが何もなくてもおかしくないだろ?」


「うぐっ……。でも、私たちみたいに進展はまだ先とかなかったじゃん!」


「なかったけど、慌ててるわけじゃないしな……」


 これから時間は十分にあるのだ。

 俺に受験真っただ中の今、恋愛にうつつを抜かしていると集中しきれなくなるかもしれない。

 もし発展するにしても、無理に焦らず流れに身を任せるのが一番だと考えていた。


「かのんちゃんはそれでいいの?」


「んー……、興味ないわけじゃないけど、付き合うのが初めてだから不安もあるんだよね。だから私も焦ってはないかな」


「ぐぬぬ……」


 若葉はどうも納得できない様子だ。しかし虎徹は素知らぬ様子でお好み焼きを食べ進めている。下手にツッコみたくないのだろう。


「むしろ今のうちに楽しまないとだよ! 大学生になっても社会人になっても色々できるけど、高校生の今のうちに色々しておくのも思い出なんだよ!」


「色々って……。なあ虎徹、お前の彼女大丈夫か?」


「ん? もう諦めてる」


「んなっ!」


「若葉ちゃん、なんかやらしー」


「ええっ!?」


 なんというか……若葉は肉食だ。最初から少し感じていた部分はあったが、虎徹と付き合い始めてから徐々に積極的な面を見せるようになってきた気がする。

 年相応に興味があるのだろうが、少なくともこの四人の中で一番好奇心旺盛なのが若葉だった。


 それから俺たちはお互いに質問をしあって、恋バナに花を咲かせた。

 テストの打ち上げというのに、ほとんど勉強の話をしないまま打ち上げは終わるのだった。

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