第151話 青木颯太は決断する

「お疲れ様でーす」


 今日は二週間ぶりのバイトの日。

 テストもあってあまりシフトに入れなかったため、俺は土曜日の昼過ぎから夜まで一日入っていた。

 そして夕方頃に俺は休憩に入ると、休憩室では早苗さんが仕事をしていた。


「おー、颯太。お疲れ様」


「お疲れ様です」


「もうそんな時間か」


 早苗さんはパソコンに集中していて時間を忘れていたのか、時計をちらりと見ると慌てて休憩室から出ていった。


 俺はそれを見送ると、持ってきていたまかないを食べ始めた。




 俺がご飯を食べ終え、余った休憩時間は携帯をいじって過ごそうとしていると、早苗さんが戻って来た。


「お腹すいたー!」


 早苗さんは出ていった時とは違い、まかないを持って戻って来たのだ。

 休憩室から慌てて出ていったのは、単純にお腹が空いていたということだろう。


「颯太、暇なん?」


「まあ、暇ですけど……」


 携帯をいじっているのも暇つぶしだ。特にゲームをするわけでもなく、適当にSNSを覗くだけだ。

 そんな俺に、早苗さんは話を進めた。


「前のテスト、どうだった?」


「突然ですね……。今までを考えると良かったですけど、納得はいかなかったですね」


「と言うと?」


「志望校を考えると、もうちょっと学力上げたいんですよ」


 今の状態では、花音と同じ大学に受かるかどうかだ。

 花音も受かるけど半々くらいだが、俺も場合は奇跡が起きたら受かるくらいだった。そのため、成績が上がったとしても満足はできなかった。


「そうなのか。昔に比べると颯太も変わったね」


「まあ、頑張らないと何で」


「……? ところで、志望校の話をするってことは、進路は決まったんだ」


「いや、まあ大学は考えてますけど、学部とかはまだハッキリとは……」


「なるほどねー。何ならうちの店を継ぐかー?」


 いつものような冗談だ。

 たまにこうして早苗さんは俺に言ってくるが、俺の返答は今回ばかりは違った。


「……それもありですね」


「えっ?」


「店長が冗談で言っているのはわかってるんですけど、実はちょっと興味があります」


 俺がそう言うと、早苗さんは難しい顔をしている。

 それもそうだ、冗談で言ったつもりが真に受けているのだから。


 それでも俺自身、興味が湧いているということは本当のことだった。


「地元の人に好かれているこの店が好きなんです。接客もですけど、色々調べているうちに経営のことも興味が出てきました」


「……それは嬉しいけど、本気?」


「少なくとも今は本気です。そんなことに興味が湧くのかはわからないですけど、今の時点でしたいと思えるのはこの店で働くことですね」


「……そっか」


 早苗さんは口を閉ざした。

 ただの高校生が継ぎたいというのだからそれも当然だろう。


 しかし、俺自身も自分で提案できるほど傲慢でもなければ自身もない。

 そのため、冗談であってもこうやって早苗さんの方から言ってくるのを待っていたのだ。

 このタイミングでなら、言ってみてもいいかもしれないと考えた。


「……継いでくれるとか、考えてくれるのは嬉しいよ」


「……はい」


「でも、もちろん高校生の颯太を見て判断なんてできるはずがないのもわかるよね?」


「それは……、もちろん」


「もし本気なら、大学で経営を勉強してきて。それで結果的に別の進路を選んでもいいし、うちで働いてもいい。色々と経験してみて、それでもうちの店を継ぎたいと思ったらその時に改めて考えるよ。……それに、継がせるかどうかは、まず大学を卒業した後に何年か勉強してからかな。実務できなかったら任せられないし」


 現実的な判断だ。

 そして、俺の戯言たわごとなんて一蹴されてしまうかもしれないと思っていた。しかし、早苗さんは真剣に考えて答えてくれた。


 幸い、俺が希望している大学は、経営学部も経済学部もあるため、どちらを選んでも経営については勉強できる。

 もっと言えば、他の学部でも……だが。


 理系から文系の転身にはなるが、俺は大学での勉強について前向きに考えていた。

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