第152話 かのんちゃんは一緒にいたい

 付き合い始めて一ヶ月、テストが合ったり、予定が合わなかったりと俺と花音はなかなか二人での時間を過ごせずにいた。

 しかし、付き合い始めてちょうど一カ月になる今日……十一月十二日に俺たちは初めてデートに出かけることとなった。

 付き合い始めてからというものの、デートというデートは初めてだ。


「楽しみだね!」


 電車に揺られながら、花音は天真爛漫に笑っている。そんな花音を見て、俺の胸は高鳴った。


 いつも遊んでいる駅前で昼食を済ませた後、俺たちは電車に乗っていた。

 普段ならそのまま近くの街中で遊んでいたが、この日ばかりは少し特別な場所を選んだ。

 電車に揺られて約一時間。向かったのは、このあたりで一番都会と言える名古屋周辺だった。


「地元もいいけど、やっぱり名古屋もいいよね」


「まあ、店とかはいっぱいあるしな」


 いつも行っているところも思い出があって好きだが、たまには人混みに紛れても都会に行ってみたいと思う。

 元々住んでいる人や東京に住んでいればなんてことはないかもしれないが、地味に距離のある名古屋も高校生の俺たちのとっては気軽に行きづらいところだった。


「さて……まずはどこから回る?」


「とりあえず適当に回ればいいんじゃない? 荷物になりそうなところは後回しにしてさ」


「それもそうだね」


 せっかくの日だ。色々と買いものをすることは予想できた。

 そのため、荷物が入るように少し大きめのリュックを背負っている。普段は使わないが、両手に荷物を大量に持つよりはマシだろうという考えだ。

 もし大人になって車でも持っていれば、行動もしやすかったのだろうが……。


「じゃあ、行こっか」


 花音がそう言うと、俺たちはどちらからということもなく以前に手を繋いでいた。

 緊張や胸の高鳴りは止まらないが、その触れている手が心地よかった。


 そして、俺たちの左手の薬指には、ようやくつけることができた指輪が光っていた。




 名古屋を回り始め、まずは服を見に行く。

 地元よりも店の数はもちろん、同じ店でも品数が多い。

 俺はあまり服を見るわけではないため詳しくはないが、明らかに店の大きさが違うのだ。


 そして……、


「ねえ、これどうかな?」


「……似合ってるよ」


「あ、ありがと……」


 俺が素直に褒めると、花音は頬を赤くする。

 初めての彼女で舞い上がっているということもあるが、花音が可愛くて仕方ない。今着ている服はシンプルにオーバーサイズのパーカーを着ているだけだが、そんなラフな格好も似合っている。

 普段は可愛い系の服を着ているため、ギャップがあった。

 また、首元に大きな黒のリボンが付いている襟付きの白いシャツに、統一感のあるグレーのチェックのジャケットとミニスカートのように可愛らしい服も似合っていれば、ハイネックのクリーム色のセーターにくすんだ青のロングスカートというシンプルで落ち着いた服も似合っている。


「颯太くんはどういうのが良いと思う?」


「えー……、どれも似合うと思うけど……」


「せっかくだから選んでほしいな」


 そう言われてしまうと拒否できるわけもない。


 俺は思考を巡らせて、花音に似合いそうな服を考える。

 ……どんな服を着てほしいか、それがポイントだ。


「俺はこれかな?」


「……へぇー」


 花音は意味深にニヤつくと、選んだ服を持って試着室に入っていく。


 そしてしばらく待っていると、花音は俺の選んだ服に着替えて出てきた。


「どう、かな?」


「……似合ってる」


 上は先ほどのものと似ているセーターは白っぽく、膝上までのチェックのチェックのスカートを合わせている。

 色白な花音と白のセーターは合っており、さらに純白なイメージが強調される。

 そして大きめのサイズのセーターに対して、タイトスカートを選んでいるため引き締められた印象が持てる。


「流石に寒いし、タイツとか履いてもいいかもな」


「……前もタイツがいいとか言ってなかった?」


 そう指摘され、俺の心臓は嫌な意味で飛び跳ねた。


「……前は否定してたけど、颯太くんってやっぱり黒タイツ好きだよね?」


「こ、今回はタイツって言っただけで、黒タイツなんて言ってないぞ!」


「……ふーん。確かにそうだね」


 納得したような言葉だが、顔は絶対に納得していなかった。

 にやけていていじられるかと思ったが、そういうわけでもないらしい。

 だからこそ、俺はそんな花音が恐ろしくて冷や汗を流していた。




 それからは花音にも俺の服を選んでもらい、お互いに選びあった服を購入した。

 以前も似たようなことをしていたが、その時と関係は大きく変わっている。

 また違った特別感を覚えていた。


 そして他にも雑貨やアクセサリーなどを見て回った後、ある意味本当の目的である本屋に来ていた。

 その本屋は普通の本屋ではなく、実質アニメショップの本屋だ。


 そこでテスト期間の溜まりに溜まったフラストレーションを解放するように、花音は散財した。

 もとい、大人買いをしていた。


「大丈夫なのか……?」


「何が? 持てるかどうかってこと?」


「いや、荷物は俺が持つけどさ……。お金とか」


「最近使ってないんだよね。修学旅行は使う予定だったから、それ用に貯金してあったし」


「……なるほど」


 俺は納得しながら、花音が両手に抱えている荷物の片方を預かった。こうなることが予想できたため、今日はリュックで来たのだ。

 自分の荷物はリュックの中に入れて、花音の荷物を手に持つ。

 花音は小さく恥ずかしそうにしながら「……ありがと」とつぶやいていたのがまた可愛かった。


「まあ、もう寄りたいところないよな?」


「そうだねぇ。……あっ、クレープがある! あれだけ食べたい!」


 目に映ったクレープ屋に花音は目を輝かせていた。

 俺もちょうど小腹が空いていたため、それに了承する。


 今日は十分に満喫できた。

 俺も普段は買わないようなものでも、今日は色々と買っていた。

 花音が学校でも人気な美少女という事実は変わらない。そのため、男として少しでもいい恰好をしたいのだ。


 最後にクレープを満喫した後、俺たちは再び電車に乗って六時前には地元に戻ってくる。

 荷物もだいぶ増えているため早めの解散にはなるが、高校生として適度な時間だろう。


 ……そう思っていた。


 駅についてから三十分以上は歩き、花音の家に近づいてくる。

 俺の家は通りすぎているが、荷物を運ぶためということと花音を送るために元よりそのつもりだ。


 最初は話が弾んでいたが、家が近づくにつれて花音の口数は徐々に減っていた。


「……ねえ、颯太くん」


「どうした?」


「この後さ……、時間ある?」


 そう言われて俺の顔は熱くなる。

 デートの後にそんなことを言われれば、察してしまうところがあるのだ。

 ……変なことはないだろうが、ちょっとした進展は期待してしまう。


 もちろん答えは決まっている。


「時間なら全然あるよ」


「そっか」


 俺が答えると、返ってきた返事は簡素なものだ。

 ただ、花音は何かを言いたそうにしていたため、俺は黙って待っていた。

 そして……、


「うちでご飯、食べてかない?」


 花音の手料理。

 ……彼女の手料理。

 嬉しくないわけがない。


 俺は静かに頷き、花音と同じマンションの一室……花音の部屋に入っていった。

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