第5話 春風双葉は一緒が良かった!
運命はなんでこんなにも残酷なのだろう。
私はこの時ほど、神様を呪ったことはない。
「ねえ、お母さん。なんで私をもう一年早く産んでくれなかったの?」
「何言ってんのよ。あんたが産まれてこなかったからでしょ?」
「そんな無茶な……」
「無茶言ってんのはあんたよ。ほら、朝練あるんでしょ? 早く準備しなさい」
「はぁい……」
私は沈んだ気持ちを切り替えるように冷水で顔を洗う。
目は覚めるけど、気分は上がらないまま、いつも来ている部活ジャージに身を包む。
先輩と付き合い始めてしばらく経った。
たまに待ち合わせをして一緒に学校に行ったり、放課後に一緒に帰ったり、ちょっと寄り道をしたり、昼休みにご飯を食べたり……。
休日になるとデートに出かけることや、公園でバスケをしたり、家でゲームをすることもある。
健全なお付き合いは続いていて、そこに関して不満があるわけではない。
お互いに都合をすり合わせれば、結構時間は取れたりするものだ。
でも、学年が違うことはどうにもならない。
一緒に授業を受けたい気持ちはあるけど、そういうことじゃなくて、もっと大きな行事を一緒にできないことが、今の私にとっての大きな問題だった。
……そう、修学旅行だ。
「先輩……、今日から三日間いないのかぁ……」
先輩と会えないから寂しい気持ちはある。
でも、これからずっと一緒にいるから、三日会えないくらいならまだ我慢はできる。
ただ、やっぱり学年が違って行事を一緒に楽しめないのは辛かった。
「先生、今から私も修学旅行に行きたいです」
「来年行けるからそれまで待ちなさい」
「今行きたいんです!」
「冬休みにでも家族と行ってきなさい」
「大会あるから無理ですよぉ……」
家族と行きたいとか、修学旅行に行きたいとか、そうじゃない。
私は先輩と行きたくて、夜に部屋から抜け出してこっそりあったり、……まあ、色々あったりして関係や思い出を深めたいという純粋に不純な気持ちしかないのだ。
私がため息をついていると、不意に携帯が鳴る。
『北海道着いたよ! これ双葉ちゃんにおすそわけ!』
そんなメッセージと一緒に送られてきた写真は、先輩が映っているものだったり、先輩たち四人が映っているものだったりと様々だ。
特に飛行機の中でうたた寝している先輩の横顔が可愛くて、私はとりあえず写真を保存した。
「花音ちゃん……。一生の家宝にします」
その後も、花音ちゃんからは写真が送られてくる。
その場に私がいないため複雑な気持ちはあったけど、本来なら見れないような先輩の姿を見れるのは嬉しかった。
そうやって憂鬱ながらも、花音ちゃんからの写真を待ち、一日を過ごす。
携帯が鳴るのを今か今かと待ち構えていた。
きっと今までで一番携帯の着信音に一喜一憂していたと思う。
それから放課後の部活を終え、いつものように自主練習をした私は、先輩の妹である凪沙ちゃんから先輩の様子を聞きながら二人で帰りつつ、家に帰ると晩御飯が待っている。
多分先輩もご飯やお風呂の時間があるのだろう。
なかなか連絡が来ないまま、夜が更けていく。
そろそろ別途に潜ろうかな?
そう思った瞬間、一通のメッセージが届く。
『起きてるか?』
私はすぐに通話をかけた。
『もしもし?』
「先輩、修学旅行は楽しいですか?」
『お、おう……、楽しいけど。どうした急に?』
「いえ、私だけ行けなかったので、ずるいと思っただけです」
『ずるいって言ったってなぁ……。本当は二年の冬なのに、俺たちだってずれ込んでるんだぞ?』
「私も年明けには行きます。でも、先輩と楽しみたかったです。あと一年早く生まれたかったです」
ワガママなことを言っているのはわかる。
困らせてしまっているのもわかる。
でも、この気持ちを持つことはそんなに悪いことだろうか?
もちろん、無理なのはわかっているから受け止めるしかない。
すると先輩から一つの提案をされた。
『それならさ……、いつになるかわからないけど、二人で北海道旅行しよう』
「えっ?」
『俺たちは学年が違うから、修学旅行へは行けない。だから、二人でやり直しみたいに、旅行し直そう。それじゃあダメか?』
「い、いえ! 行きたいです!」
学年の壁はもどかしい。
でも、少しのすり合わせくらいはできる。
「楽しみですね」
『ああ。でも、行けるのはいつになるかわからないぞ? 大学生になってからとか、大人になってからになるかもしれないし』
「大人になってから……」
『嫌だったか?』
「全然そんなことないです! ぜひ行きましょう!」
それから私たちはしばらく話をしてから電話を切った。
先輩は修学旅行を楽しんでいるみたいで、私は花音ちゃんから送られてきた写真の話もして、ちょっと遅くなってしまった。
眠い目をこすりながらベッドに潜った。
でも、気分が高揚している私はなかなか寝付けずにいた。
そうか……、先輩は大人になっても私といてくれるんだ。
自分もそのつもりだ。
ただ初恋は実りにくいとも聞く。
不安な気持ちもある私だったけど、先輩の言葉がたまらなく嬉しく、この日はいつ寝たのか記憶にないほど夢心地だった。
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