第6話 春風双葉はもらいたい!

「先輩! お土産ください!」


 修学旅行から帰ってすぐ、がめつくもそうやって要求してきたのは俺の彼女だ。


 旅行先はバスと飛行機を乗り継いで行ったため、帰りも同じだ。

 学校で解散することになっていたのだが、俺たちが学校に着いた頃にはちょうど放課後の部活の時間だった。

 旅行のことを思い思いに談笑していると、気が付けば部活も終わる時間となり、俺たち四人が話している輪の中に双葉がやってきてそう言い放った。


「はい! これ双葉ちゃんにお土産!」


「私からもあるよ!」


「わーい! ありがとうございます!」


「言っておくけど、俺からはないからな」


「虎徹、ちゃんと買ったでしょ?」


「……はい、これ」


「藤川先輩もありがとうございます!」


 そうやって俺以外の三人は双葉にお土産を渡す。

 あとからやってきた俺の妹の凪沙にもあげていて、あとは俺が渡すだけだ。


 でも、俺はここで渡すのは気が引けた。


「あー……、また今度でいいか?」


「え? 今じゃダメなんですか?」


「ダメっていうかなんて言うか……」


 俺は困ったように目線を逸らすと、わかっている人が約一名。

 花音はニヤニヤと笑みを浮かべながら俺の方を見ている。


「おい、ニヤニヤするな。こっちを見るな」


「ひっどーい! 別に何も言ってないのに!」


「目は口程に物を言うものだぞ」


 そんなやり取りをしていると、双葉は可愛らしく頬を膨らませる。


「先輩、浮気ですか?」


「俺がそんなにモテるように見えるか?」


「モテるから言っているんです!」


 どうやら彼女を怒らせてしまったようだ。

 俺はなだめるために、仕方なく代わりの物を渡す。


「ほら、これ」


 北海道に売っている有名なチョコ菓子。

 本当は自分用にと買ったものだが、俺が双葉に渡すと嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます!」


 そうして事なきを得た。




 それから俺たちは談笑しつつ、一人、また一人と別の道へと帰っていく。

 正直、花音だけが反対方向の帰り道なのは今まで不便だと感じていたが、この時ばかりは助かったと言わざるを得ない。


 そうして厄介なのは凪沙の存在だ。

 いや、妹に対して厄介という言い方はどうかとは思うが。

 とにかく俺は、この妹とは別行動をしたい。

 したいのだが……、


「それじゃあ先輩、旅行の疲れもあると思うので、ゆっくり休んでください」


「おう。双葉も、練習無理しすぎるなよ」


 双葉を家の前まで送っていき、あとは凪沙と家に帰るだけだ。


 ここで別行動なんてできるはずもない。

 そのため、俺は財布の中身を犠牲にすることにした。

 家に着くなり、凪沙に話しかける。


「凪沙、コンビニ行ってくるけど、何かいるか?」


「え? 帰ってきたばっかりなのに? うーん……、せっかくだし私も行こうかな?」


「いや、ちょっと温かいものを飲みたい気分だから、凪沙はココアでも用意しておいてくれ」


「う、うん、わかった。それじゃあ、シュークリーム食べたいな」


「了解。行ってくる」


 そうして俺はカバンを持ったまま家を出て、一通のメッセージを送った。




「先輩、どうかしたんですか?」


 メッセージを送った先はもちろん双葉だ。

 送った内容は『公園まで来てほしい』ただそれだけだった。

 俺はコンビニに行かず、真っ先に公園に向かった。


「渡したいものがあるんだ」


 双葉は首を傾げながら素っ頓狂な返事をする。

 そして俺は用意していたあるものをカバンから取り出す。


「ごめん、大したものじゃないんだけど……受け取ってくれるかな?」


「えっと……」


 本当は双葉に渡すためにネックレスを買っていた。

 安物だけど、旅行先にあったガラス細工の店で買ったものだ。

 お土産は何にしようか悩んでいたところ、ガラスで有名な街だと耳にして、入った店で売っていたものだった。


 この時、途中まで四人で回っていたのだが、虎徹と若葉は二人でどこかに行ってしまったため、俺と花音も各自お土産を買う時間に当てていた。

 しかし、一足先に買い終えた花音が、俺が店に入っていくのも見て、あとをつけられてしまったと言う事だった。

 その日は散々いじられたものだ。


「まさか、こんなに素敵なものを買ってきてくれてるなんて」


「柄にもないけどな」


「でも、一生懸命考えてくれたのが伝わって嬉しいです。もちろん、お菓子も嬉しかったですけど、形に残るものだと、思い出にも残るじゃないですか」


 正直、そこは悩んだところだった。

 付き合って一ヶ月やそこらでアクセサリーをプレゼントするなんてハードルが高すぎる。

 ただ、こんな特別な日くらいしか、あげるタイミングなんて見つからないと思ったのだ。


「先輩、着けてください」


 そう言って、双葉は後ろを向く。

 俺は首筋に視線を奪われながら、変な気を起こさないようにただネックレスを着けることだけを考える。


 ぎこちない手つきでつけ終わると、双葉が振り返る。


「どうですか?」


「……似合ってると思うよ」


「本当ですか? 嬉しい」


 そうやってはにかむ双葉に視線を奪われる。

 胸元に輝く緑色のガラス細工よりも、双葉の笑顔に引き寄せられて、目が離せなかった。そ

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