第14話 春風双葉は背負われたい

「せーんぱい! えへへ、会いたかったです!」


「双葉か……今日部活は?」


「休みなんです! 一緒に帰りましょう!」


 年が明けて一週間。

 学校が始まってから少し経ったが、双葉は俺に対してずっとこんな様子だ。

 ……ちなみに昨日も今朝も顔を合わせている。


 年末でのデートで、俺が双葉の支えになりたいと言ったことがきっかけだ。

 双葉はそのことが嬉しかったようで、冬休み中も何度か会っているが、その度に双葉からの愛が増している気がする。

 正直言って悪い気はしない。

 しないのだが……気恥ずかしいのは間違いない。


「二人ともお熱いな」


「はあ……」


 そんなことを考えていると、からかうやつが一名。

 ……そして二名、三名と増えていく。


 もう慣れつつあるが、俺は適当にあしらいながら双葉の手を引いて下駄箱を後にした。




「先輩、もうすぐ卒業ですね」


 寂しそうに言う双葉に、俺は言葉を発しかけたが止める。

 今までなら『まだまだ先だろ』と軽く笑い飛ばすところだが、卒業はもう間近に迫っている。

 二ヶ月もなく、俺はこの学校を巣立っていく。


「恋人として高校生活を過ごしたのって、まだ一年もないじゃないですか? なんか短かったなーって思います」


「そう……かもしれないけど、別に短すぎるほどじゃないと思うな」


 一学年違う俺たちは、どう頑張っても二年しか同じ学校にいられない。

 そんな中、今で約五ヶ月……卒業時には約七ヶ月になっている。

 学校生活の四分の一と考えたら、まあ普通だろうと俺は思う。


 それに今までずっと後輩として接してきたのだ。

 なんならこのまま進展していなくてもおかしくはなかったし、少し何かが違えば別の現実が待っていたかもしれない。

 ――例えば、花音とか美咲先輩とか綾瀬とか……他の人と付き合っていた可能性だってあったのかもしれない。


 そんな中でも、こうやって双葉と付き合えているのは奇跡だと思っている。

 何よりも変えがたい、今の俺にとっての大切な思い出とこれからの未来だ。


「先輩って私のこと結構好きですよね」


「……何を言っているんだ?」


「だって高校生の恋愛って、本人たちは本気のつもりでも、結局遊び半分じゃないですか? 結婚したいとか一生一緒って言っても、本当にそうなるのはほんの一握りで……。やっぱり今が大変だから、将来はあんまり見ていないんです」


「それ、かなりの人から顰蹙ひんしゅく買いそうだけど……」


「実際、そう思っている人って多くないですか?」


「まあ……。それで、俺の話とどう繋がるんだ?」


「えっとですね、高校生のうちだと将来って言っても、大学とか考えるとか仕事して何歳くらいに結婚したいなー……くらいだと思うんですよ。でも、先輩は将来設計もしてるって言うか……」


 なんとなく言いたいことはわかった。

 つまり、大多数はざっくりした将来しか考えていないと言いたいのだろう。

 ただ、俺も似たようなものだ。


「これだって仕事すら俺は見つけてないけど、それは違うのか?」


「ハッキリと違います。その仕事だって相手ありきで考えているじゃないですか? だから私は安心して先輩を信頼できるんです」


 その言葉でしっくりときた。


 俺のやりたい仕事は双葉の支えになりたいからというもので、他の人は自分のやりたいことをやった結果で結婚を考えているということだ。


 どちらがいいのかなんてハッキリとわからないし、なんなら生き方としては俺の方がおかしいとも言える。

 だって、俺が仮に双葉と別れてしまえば、その仕事は別にやりたいことでもなく、意味を為さなくなってしまう。


 ただ、双葉にとっては、そういって選択が『自分とは離れない』という安心感を生んでいるのだと言う。


「まあ、重いですけど」


「うっ……」


「でも、私の人生を背負ってくれるのなら、それくらい重くないと潰れちゃいますからね」


 そうやって双葉は笑顔を向けてくる。

 この子も大概重いのだと感じながらも、恋愛観なんて人それぞれだという結論に落ち着いた。

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