第13話 青木颯太は支えたい
伝えたいこと。
俺はこのモヤモヤとした気持ちを晴らすべく、双葉と二人で観覧車へ乗り込んだ。
去年と同じようなルートを辿り、変わった関係性で感じ方も違う。
簡単に言葉で表すと、去年の方が楽しく感じていた。
ただ、今に限っては去年の方が楽しく過ごせていただろう。
対面で向かい合いながら、しばらく無言が続く。
話そうと思ってもこの空気感に口が開けずにいて、双葉も恐らく話を切り出しづらいのだろう。
しかし、俺はこのままではダメだと思っているから観覧車に乗ったのだ。
意を決して口を開く。
「俺さ、双葉に見合わないと思っているんだ」
「そんなこと……」
俺の言葉を否定し、遮ろうとした双葉は口を噤む。
続きの言葉を聞くためだろう。
その目にはちょっとした怒りが潜んでいた。
「双葉はバスケで成功している。大人になってもからどういう仕事をするとか、そんなことはわからないけど、少なくとも高校生の現時点では俺と双葉には大きな差があるんだ。俺はただの高校生でバイトをしているくらい、大学は決まっているけど至って普通の高校生なんだ。でも、双葉はバスケで全国に行っている。しかもエースとして活躍していて……確実に高校生の中でも一握りと言える存在だ」
双葉は誰から見ても誇れるところがある。
俺は卑下するほどの人生ではないと思っているが、誇れるほどではないと思っていた。
「……なんとなく、双葉がどう思っているかはわかっている。でも、俺の気持ちもわかってくれるか?」
双葉の答えはわかっている。
それでも少しばかりの不安は残っていた。
気持ちをぶつけるようにゆっくりと口を開いた。
「私は先輩と一緒にいたいです。私だって普通の高校生なんですよ?」
「……そうだな。ただ、周りの人がどう見てるかはまた別だ」
「それは……」
釣り合っていない。
ほとんどの人がそう言うだろう。
いや、そもそも俺と双葉の関係に興味がない人の方が多いだろうが、バスケをやっている人間からすると俺は許されない立ち位置にいると思っている。
「でも、私は先輩と一緒にいたい。別れたくないんです」
悲痛の思いを静かに叫ぶ。
……俺は首を傾げた。
「別れるとは言ってないぞ」
「えっ?」
俺が今まで考えていたことや双葉に伝えたかったことは、何も別れるということではない。
今まで誰にも言ってこなかったことがあり、親にすら話していないことだ。
それを双葉に伝えるのには勇気が必要で、緊張して上手く言葉がでないから、楽しくなさそうに見えたのかもしれない。
俺の気持ちは前向きだった。
「俺はこれからも双葉を支えていきたい。だから大学ではこれからの双葉を支えていけるように勉強していきたいと思っていたんだ。……俺は資格を取りたいんだ」
「資格……」
正直に言うと、まだ気持ちは浮き足立っている。
資格というのも、これといったものを決めているわけではないため、伝えていい気持ちかわからなかった。
でも……、
「トレーナーでも栄養管理師でも、なんでもいい。それを目指している人からしたら適当に見えるかもしれないけど、双葉のためになるならなんだってしたいと思っているんだ。俺はそれを大学で勉強したい」
今まで言わなかった理由は悩みだ。
しかし、言った理由は覚悟だった。
俺は自分に嘘をつきたくない。
宙に浮いたままの気持ちでは、自分の中でなあなあにしてしまうと思ったため、こうして双葉に宣言したのだ。
「これからも一緒にいてほしい」
俺は双葉の表情が見れなかった。
双葉への後ろめたさが目を逸らさせた。
「当たり前じゃないですか」
嬉しそうで怒気を孕んだ双葉の声に、二つの意味で心臓が跳ねる。
その瞬間、頬に柔らかい感触が伝う。
「なっ……! ふ、双葉!?」
「これくらいは許してくださいよ! 不安にさせた罰と……これから一緒にいる近いです」
そう言いながら双葉は抱きついてくる。
揺れる観覧車が一時停止し、どこに取り付けてあるのかスピーカーから注意の言葉が流れる。
揺れは止まって観覧車は動き始めたが、少しだけ傾いていた。
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