第12話 青木颯太の悩み

 俺は少しだけ学習したことがある。

 それは、双葉は目を離すと大体ナンパをされるということだ。


 対処法は諸事情で嫌というほど学んできたが、ナンパされないに越したことはない。

 一人にさせないようにすると、当たり前だがナンパされることはない。

 ただ、周りの男から刺さる視線は痛かった。


 ……やっぱり、俺は双葉と不釣り合いなのだろうか。


 そんなことが頭をよぎる。


「先輩。どうかしたんですか?」


「い、いや、何でもない」


「そうですか? じゃあ、これ見てくださいよ! ぬいぐるみ可愛いです!」


「買ってあげたいところだけど、荷物になるからまた後でな」


「やった!」


「……なんか珍しいな。双葉のことだから遠慮するかと。もちろん、買ってあげたいから、適当言ってるわけじゃないけどさ」


「だって、今日は特別な日ですから。ちょっとくらい甘えたくもなるんですよ」


 そう言って双葉は俺に体を寄せる。

 気恥ずかしさでつい避けてしまいたくなるが、それはあまりにも双葉に失礼だ。


 一瞬離れかけた体を押し返すように、双葉に寄せた。




 それから俺たちはクラゲを見に行った。

 コーナーとしては大きくはないが、様々な種類がいて見ごたえがある。

 透明なクラゲはライトアップされる。

 様々な色に照らされるクラゲは、まるで自分も変色しているかのようだ。


「綺麗ですねぇ……」


 双葉も綺麗だよ。

 ……なんて気恥ずかしくて言えない。

 こういう時、アニメではよく言っている気がするが、普通は言うものなのか言わないものなのかわからない。


 ただ、最近きざなセリフを言いすぎている気がしなくもないため、ここでは自重する。

 双葉なら喜んでくれるかもしれないけど、個人的に痛く感じてしまって、今日という日が黒歴史の一ページに刻まれてしまうかもしれない。


「先輩? どうしたんですか、ぼーっとして」


「悪い、なんだった?」


「いい時間になってきましたし、そろそろ水族館を出てもいいかなーって話でしたけど……楽しくなかったですか?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「今日、なんかおかしいです。ずっと他のことを考えている気がして。……ちょっと辛いです」


 少し元気なフリをして無理に笑う双葉。

 でも、どこか悲しそうな表情に俺の心が痛んだ。


 双葉を楽しませるつもりが、悲しませてしまったのかもしれない。

 ただ、いつもいつも、双葉とは大きな差を感じてしまう。

 去年もそうだが、今年だって彼女は全国大会に出るようなバスケプレイヤーで、俺は何もないただの高校生だ。


 いまさら悩んでも仕方ないことはわかっている。

 ……わかっているのだが、やっぱり考えてしまうのだ。


 今日一日過ごしていて、その気持ちはさらに強くなっていた。

 今日はその気持ちを伝えなくてはならない。

 ……一日中そのことばかり考えてしまっていたのだ。


「なあ、双葉。話があるんだ。……少しだけ時間いいか?」


 俺の言葉に双葉は頷く。

 不安そうなその表情に心が痛む。

 こんな表情をさせたかったわけではない。


 でも伝えなくてはいけないと思っていた。

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