第119話 青木颯太を祝いたい!
今日は特に予定はなかったが、虎徹の家に呼び出された。
それ自体は何ら不思議なことはない。
お互いに予定が空いていた場合、急に遊ぶことはあるからだ。
しかし、俺が虎徹の家に行くと、明らかにおかしなことがあった。
「先輩! おはようございます!」
「お、おう。おはよう?」
――もう昼なんだが?
何故か双葉がいた。
こんなことは、当然初めてだった。
お盆が過ぎて八月も下旬に差し掛かった八月十九日。
今日は凪沙に誘われてバスケをする予定だったが、急用が入ったと言って俺は暇をしていた。
それでも受験生の俺は勉強をすればいい。
そんなことを考えながら机に向かっていると、虎徹から『今日暇?』と連絡が来たため、俺は即答で返事をした。
しかし、いざ虎徹の家に行くと、俺を出迎えたのは双葉だった。
「えっと……、なんで双葉が?」
俺は動揺を隠せずに答えるが、双葉は俺の言葉を華麗にスルーすると、「まあまあ、こっちにどうぞ」と言って背中を押されて虎徹の部屋に連れていかれた。
「……虎徹本人がいないけど」
「いいんですよ! 私が颯太先輩の相手をするように、藤川先輩から仰せつかったので」
「お、おう?」
どういうことか理解できない。
ただ、俺は「ゲームでもしましょう!」と双葉がテレビとゲーム機の電源を入れる。
「勝手に良いのか……?」
「大丈夫です! ちゃんと許可はもらっているので!」
謎は深まるばかりだ。
しかし、いいと言っているならいいのだろう。
念のため虎徹に連絡をすると、『俺が許可した』という返事が来た。
しばらくの間、俺と双葉がゲームをしていると、携帯の音が鳴り響く。
「あっ、私ですね」
ちょうど一区切りついたタイミングだったため、双葉は携帯を操作し始める。
「……そろそろオーケーです」
「えっと、何が?」
「そろそろゲームやめて、リビング行きましょー!」
双葉はそう言うと、ゲーム機とテレビの電源を切る。
俺はそんな双葉に釣られるように立ち上がると、再び双葉に背中を押されて連れられる。
荷物は置いたまま携帯だけを持って、俺たちはリビングに向かった。
「さあさあ先輩。お先にどうぞ!」
「え、何で?」
「いいからいいから」
ここまでされると、俺も流石に勘付いてはいる。
しかし、確信は持てなかった。
何故なら
半信半疑のまま、俺はドアを開ける。
すると、盛大にクラッカーが鳴り響いた。
「誕生日おめでとー! ……一日早いけど」
若葉の声で、俺の勘は当たっていたのだと確信する。
八月二十日は俺の誕生日。
その当日にも四人で遊ぶという予定は立てていた。
誕生日の前日である今日ということもあり、俺は虎徹の家に双葉がいるということや、双葉の不可解な行動でようやく半信半疑というとこまで考えついた。
そんな中でのサプライズだ。
サプライズが嬉しいかどうかは人によるが、少なくとも俺にとっては嬉しかった。
「颯太くん、おめでとう」
「ありがとう」
花音は何故かエプロン姿だが、その姿に温かみを感じる。
虎徹もぶっきらぼうに「おめでとう」と言い、俺は小さく笑いながら返事をした。
すると、真後ろから再びクラッカーが鳴り響く。
「うおっ!」
「私もクラッカー鳴らしたいですよ! そして祝いたいです! 先輩、おめでとうございます!」
「一体どこから出したんだそれは」
今まで一緒にいて、クラッカーなんて持っていたら俺にバレるリスクがあるだろう。
隠し持っていたにしては気付かなかったため、俺はそこにツッコんだ。
「玄関に隠してました! それなら先輩にバレることもないですよね?」
「あぁ……、なるほど」
俺の後ろにいたのだ。目を盗んで隠してあったクラッカーを回収するくらい、造作もないだろう。
それにしても、ここまで盛大に祝ってもらえるとは思わなかった。
急に呼び出されたこともあって、『もしかして?』と思いながらも、今日ではないと思っていたのだ。
俺に予定が入っているかもしれないから。
しかし、シレッとこの場にいる凪沙を見て、俺は理解した。
「……そういうことか。凪沙の行動、なんかおかしいと思ったんだよ」
「え、そう? 完璧だと思ったんだけどなー」
「急用っていうのはわかるけど理由を言わなかったし、凪沙がバスケより優先する用事ならちゃんと言いそうだし」
明るくて軽い感じだが、しっかりしてるのが凪沙だ。
普段なら『用事』とだけ誤魔化すことはないが、今日に関してはそうだった。
「俺が予定を入れないように凪沙が確保しておいてドタキャンってことかな? そしたら俺も暇になるし」
「うんうん、そういうこと。ちなみにテツくん考案だよ」
凪沙がそう言ったため虎徹に視線を向けると、心なしかどや顔になってる気がする。
三人……もしくは双葉を含めた四人で考えていたのか、その上で凪沙に協力を仰いだのだろう。
双葉に関しては、最近は俺たちの中に混ざることもあるため、ただ誘われた可能性はある。
しかし、俺も双葉もお互い予定が空いているとなれば遊びに出かける可能性もあるため、そうならないようにあらかじめ仕向けた可能性もあった。
今日は学校の体育館が点検ということもあって、双葉と凪沙たちバスケ部と若葉たちバレー部が休みだった。
双葉が休みということも知っていたため、凪沙との予定がなければ双葉を誘っていたかもしれない。
「当日だとサプライズって難しいよねー」
「まあ、確かに普通なら何もない日ならな」
俺は花音の誕生日を思い出しながらそう言った。
花音の誕生日はクリスマスだったため、クリスマスパーティーという名目でサプライズができた。
特に花音が俺たちに誕生日を教えていなかったことも大きな要因だ。
半信半疑とはいえ、リビングに入る直前には勘付いた。
しかし、何もないはずの日にサプライズをされて、直前まで気付けなかったのだ。
五人が考えてサプライズをしてくれたことが、俺にとってはたまらなく嬉しかった。
「まあまあ、とりあえず主役はここに座って!」
俺は若葉に促されるまま居間のテーブルに座ると、花音がケーキを運んでくる。
「みんなで作ったんだよ」
「えっ? 手作り?」
「うん、そうだよ」
立派なホールケーキだ。
ケーキを作るという考えがない俺にとっては、手作りのホールケーキを出されて、驚きを隠せなかった。
よく見ればところどころ手作り感はあったが、何も言われなければ気付かなかっただろう。
「みんなでって言っても、花音先輩がほとんど作ったんですけどね」
双葉がそう補足すると、花音は照れたような恥ずかしそうな表情を浮かべている。
エプロンを着ているのは、花音が主導になって作っていたからということに気が付く。
「ありがとう、花音」
「お菓子作りは好きだし、これも良い経験だよ」
花音はツンとした態度でそう言った。
しかし顔が赤くなっているため、照れ隠しというのはすぐにわかる。
「じゃあ、ロウソクの火だけつけて、みんなで食べよ!」
若葉がそう取り仕切り、部屋の電気を消した。
まだ前日。
しかし、俺の誕生日パーティーは、こうして始まった。
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