第10話 青木颯太は考え続ける

 双葉のためにデートプランを用意したい。

 そう考えているが、経験の浅い俺が頭をひねらせたところで限界がある。


 俺は双葉より一足先に東京を出て、地元に戻ってきていた。

 新幹線や電車の中で頭を悩ませているが、一向に良い案が見つからない。


 キャリーケースを引きつつ頭を悩ませながら、俺は家に帰ろうとしていた。

 ……そんな時だった。


「あーっ! もうっ! 取れない!」


 聞き覚えのある騒ぎ声がゲームセンターから聞こえてくる。

 この一年になって毎日のように聞くようになった声に、俺は顔を見ずともわかっていた。


「……花音、何してるんだ?」


「あ、颯太くん。帰ってきてたんだ」


 花音はクレーンゲームとにらめっこしていたが、俺の方に視線を向ける。

 双葉の応援に行っていたことは知っていたため、荷物を持っている俺にその言葉を投げかけるのは自然なことだ。


「実はクレーンゲームしてたんだけど、なかなか取れなくって……。あっ!颯太くんって上手かったよね? 代わりに取ってくれない?」


「最近やってないからどうだろう……。お金は出してくれよ?」


「もちろん!」


 俺は花音の代わりにプレイする。

 ここ最近は、今回の東京行きやクリスマスのためにバイト代を貯めていたこともあり、クレーンゲームはやっていない。

 鈍った感覚を取り戻しながらも、千円を少し超えたところで目的のフィギュアは落下音とともに取り出し口に落ちる。


「わぁ……! ありがとう!」


「結構かかっちゃったけどな」


「ううん! 私がやってた時なんて三千円かけても無理だったから、これくらい安い安い!」


 推しに掛ける情熱があることはいいのだが、花音の将来が心配だ。

 完全に金銭感覚が壊れているし、二次元にのめりこみすぎて破産なんてしたら目も当てられない。


「大丈夫大丈夫。私だって常識くらいわきまえてるもん」


「……しれっと心を読むな」


「もう一年以上も一緒にいるし、何となくわかっちゃうんだよねー。それに、この一年は濃かったし」


 確かに今までにないほど濃い時間を過ごしてきた自信はある。

 だからこそ、今のように気安い友人として関係が落ち着いているのも、当然ではあり、少し違和感が合ったりもする。


「ところで颯太くんは今から帰り?」


「あぁ、そうだけど…。あっ。また心読まれたか?」


「私の心も読まれちゃってるみたい。……何か悩みあるんでしょ? よかったら話聞くよ」


 こうして俺たちは帰路についた。




「それで、何があったの?」


 花音は早速話を切り出す。

 相談したところで花音に答えられるのか?

 ……そんな疑問はありながらも、とりあえず話すことにした。


「クリスマス……はもう終わったけどさ、双葉と出かけることになっているんだ。楽しませられるようなプランを俺が考えることになっているんだけど……ぶっちゃけ、経験少なすぎてどこに行けばいいのかわからないんだ」


「あぁ、デートってことね」


 あえて避けていた単語を使われ、俺は顔が熱くなるのを感じる。

 友達にデートに行くと言うのは少し気恥ずかしさがあり、軽く濁してはみたのだが……。

 まあ、バレバレだから関係ないけど。


「結局、どこに行くかじゃなくて誰と行くかってことじゃない? そんな話よく聞くし」


「そうは言っても、興味ないところに行くのは嫌だろ? どこに行くかっていうのもさ、ちゃんと考えた上でのことだと思うし」


「……じゃあ、答え出てるんじゃない?」


「えっ?」


「颯太くんが考えたところなら、双葉ちゃんは喜ぶよ」


 花音は眩しい笑顔を向けてそう言った。


「私なら、アニメショップとかゲームセンターでも喜ぶし、ちょっとオタク趣味から離れて遊園地とかでも嬉しいよ。それは私の話だけどね。……双葉ちゃんならそれでも喜びそうだけどさ、颯太くんの直感で楽しめると思ったところならきっと楽しめるはずだって」


「なるほど……」


「私が話聞いておいてなんだけど、私がおすすめした場所に行くとかは絶対にやめた方がいいからね。万が一知られちゃったら、いくら友達とはいえ他の女が選んだ場所に行くことになるわけだし。逆だったら嫌じゃない?」


 そう言われて俺は想像してみる。

 仮に相談相手が虎徹だったとしても少しだけモヤっとしてしまう。

 知らない男ならなおさらだ。


 元々花音に決めてもらいたくて相談したわけではなかったが、アドバイスさえももらわずに自分一人で考え抜いた方が結果として双葉は喜ぶのだろう。

 ただ、道筋だけは花音が教えてくれたため、話して良かったと思う。


「じゃあ、私はこっちだから。……デート楽しんでね」


「ありがとう。それじゃあ、また今度」


「……うん」


 花音は愛想笑いを浮かべて去っていった。

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